合理主義者な外科医の激情に火がついて、愛し囲われ逃げられない

「今日の披露宴のコンセプトは〝オーロラウエディング〟です」

 その言葉を聞いた途端、鈴菜の心臓が凍った。

「ローマ神話ではオーロラは夜明けや希望の象徴とも言われています。僕たちの結婚式にふさわしいテーマです。僕は愛する妻のために自ら考えこの場をプロデュースしました。今、社内で行っているウエディングプランコンテストにもこの案で応募していますが、実際この場に立ってみて、僕の案は間違っていなかったと確信しています」

 周りからおぉ、と感心する声が上がる。

「本日は、このコンセプトにあったおもてなしで日ごろの感謝を皆様に少しでもお伝えできればと思います。どうぞごゆっくりお過ごしください」

「……そんな」

 大きな拍手の音に隠れるように、鈴菜は思わず力なく呟いていた。


「……というわけで、土(つち)谷(や)君は明るくバイタリティにあふれていて、当館でも特に将来を期待されている有能な社員というわけです」

 壇上では新郎の上司にあたるゲストハウスの支配人がスピーチ中だ。職場関係者が集められた円卓の一席でぼんやりと聞いていると隣の席から視線を感じた。