合理主義者な外科医の激情に火がついて、愛し囲われ逃げられない

 鈴菜は掴んでいた手を離し、慌てて立ち上がる。

「ご、ごめんなさい。冗談です。やっぱりちょっと飲みすぎてたみたいです。心配していただいたのに、ふざけてすみません……忘れてください。もう帰りますから」

 いくら切羽詰まっていたとはいえどうかしていた。深い反省と謝罪を込めて頭を下げる。

「引き受けようか」

 しかし、頭上から降ってきたのは思いがけない言葉だった。

「……え?」
(今『引き受けようか』って聞こえた気がしたけど、気のせいかな)

 恐る恐る頭を上げると、どこか楽しげな表情がこちらを見ている。

「その話、おもしろそうだ」

 あぜんとする鈴菜に構わず、彼はゆっくりととなりの椅子に腰かける。

「俺は望月(もちづき)悠磨。三十三歳で職業は医者。恋人はいないし、もちろん独身。役にたてそうか?」
 頬杖を突きながらこちらを覗きこんでくる彼の表情は、やはりなにかを楽しんでいるように見えた。




「あの、やっぱり偽の新郎役なんてお願いするわけには……」

「俺がいいと言っているのに?」

 恐る恐る口を開いた鈴菜に、悠磨は軽い調子で答えた。