合理主義者な外科医の激情に火がついて、愛し囲われ逃げられない

 今考えられる選択肢は三つ。正直にすべて嘘ですと告白して謝って回るか、結婚するつもりだった相手と破局したと適当な嘘で誤魔化すか、本当に結婚式を挙げるか。しかし、最後の選択肢は一番非現実的だった。

『俺なんかよりとてもすてきな人って言ってたな。どんな男に会わせてもらえるか楽しみにしてるよ。ああ、ちなみにその場しのぎの代役に頼んでもすぐわかるからな』

 土谷にはそう釘をさされている。突っ込まれたら誤魔化せる気がしないし、そもそも代役を頼めるような相手もいない。

「ぜんぶ嘘でしたって謝るのと、結婚目前に破局しましたって嘘をつくのとどちらがいいかな……」

 ジンバックを飲み干した勢いで、思わず独り言が漏れてしまった。店内には数人の客がいたので、慌てて口を噤む。

「いつもよりペースが速いよ」

 マスターが心配そうにお冷の入ったグラスを差し出してきた。

「大丈夫です。次はショートにしようかな。ブルームーンでお願いします」

 鈴菜はこの店の雰囲気を楽しみながら二、三杯カクテルを楽しんで帰るのが常だ。しかし、今日はグラスを空けるペースが早くなっていてすでに三杯目を飲み干していた。