合理主義者な外科医の激情に火がついて、愛し囲われ逃げられない

 ニヤニヤする純也を前に鈴菜は慌てて手元のグラスを飲み干し、悠磨は軽く咳払いした。

「そんなことより、最近親父は来ているのか?」

「ああ、ちょうど一昨日来たばかりだよ」

 鈴菜がここに案内して以来、義父は出張のたびにここに顔を出すようになったらしい。

「『お前も早く鈴菜さんのようないい女性を見つけろ』なんて、本当にお節介だよね。三十半ばのおっさんなんだから放っておいてくれればいいのに」

 シェイカーを振りながら純也は苦笑しているが、言葉とは裏腹に口調は穏やかだ。

(ふたりの関係、どんどんいい方向に進んでいるみたいで良かった)

 鈴菜がホッとしていると、純也はシェイカーの中身を素早くふたつのショートグラスに注ぎ、悠磨と鈴菜の前に置いた。

「俺からふたりへ」

「ブルームーン、ですね」

 すみれ色が美しいカクテルは元々鈴菜が好んで注文するドリンクだ。悠磨と初めて話したのも、これを飲み干そうとして止められたのがきっかけだった。

「このカクテル言葉知ってる?」

「たしか〝できない相談〟でしたよね」

 あのときはこのカクテル言葉が誰にも頼れない自分にぴったりだと皮肉に思っていた。