合理主義者な外科医の激情に火がついて、愛し囲われ逃げられない

 この先土谷の処分がどうなるかは本部の判断になる。映像も残っているし専務も守り切れないのではないだろうか。

「あんな騒ぎを起こすほど恨まれたなんて」

 鈴菜は悲しみとやるせなさで胸を詰まらせながら、コーヒーカップの水面を眺めた。

「君は一切悪くない。あいつがクズだっただけだ」

 隣で悠磨は不快感をあらわにしている。

「私が土谷さんからの不倫の誘いを断ったのも、気にいらなかったのかもしれません」

「……不倫の誘い?」

 一瞬の間の後、地を這うような声が聞こえた。

「い、一度だけですしもちろんその場でハッキリ断りましたからね! その後は一切ふたりきりにもなっていませんから」

 慌てて説明するが、悠磨は眉間に皺を寄せ「一発殴ればよかった」などと物騒なことを言い始めた。鈴菜はきちんと状況を説明してから話題を逸らす。

「あの、今日は本当にありがとうございました。あのときは本当に焦っていて、悠磨さんが声をかけてくれなかったらみっともなく取り乱していたかもしれません」