合理主義者な外科医の激情に火がついて、愛し囲われ逃げられない

 専務の娘と結婚が決まったころから少しずつ横柄になっていると職場で囁かれるようになっていた土谷だが、結婚してからはさらに評判が悪い。

 璃子も『みんな忙しいのに、たいした仕事もしないでフラフラしてるんです。支配人のことまで自分の部下みたいに使おうとしてるんですよ。専務の娘さんと結婚したからって自分が偉いって勘違いしてるんじゃないですかね』と、とても憤慨していた。

「俺には媚び売っておいた方がいいよ。近々本社に引き抜かれて経営に関わるんだから。もうすぐ客に振り回される仕事とはおさらばだ」

 専務の娘との結婚を機に土谷は本社部門で要職に就く見込みらしい。

「でも今は私と同じ立場のプランナーですよね。同僚として必要なフォローはしますがそれ以外はお断りします」

 鈴菜はつとめて冷静に答える。そもそも別れるときに一切関わるなといったのはそちらではないか。あれだけのことをしておいてよく声をかけられるものだ。

 必死に感情の消火活動をしていたというのに、ガソリンタンク片手に近づいてこないでほしい。

 不満そうな顔をしていた土谷だったが、急に口の端を上げた。