合理主義者な外科医の激情に火がついて、愛し囲われ逃げられない

 固唾をのんで見守っていた鈴菜は日村の大声にハッとする。捨て身の彼女に騒がれたら事実でなくても悠磨の立場が悪くなる。
 なんとかしなければと思ったとき、増田が「そろそろいいかな」と声を落とした。

「失礼しますよー、ほら鈴菜ちゃんも」

 増田は勢いよくドアを開け、鈴菜も続いて中に入る。日村は「な、なんで」と目を見開いたまま固まった。

「鈴菜」

 一瞬驚いた顔をした悠磨だったがおいでとばかりにこちらに向かって手を伸ばした。鈴菜が躊躇なく彼に近づくとしっかり腰を引き寄せられた。

「俺の価値がなんだって? 俺のことを世界で一番理解しているのは妻だ。裏切るようなことは絶対にしない」

 日村に向かって放った迷いの無い口調はその場しのぎのごまかしとは到底思えなかったし、思いたくなくなかった。

(私、日村さんに騙されていたんだ)

 愛人ではなく、悠磨に思いをよせていただけの日村。そして悠磨は彼女の誘いを毅然と拒絶し妻を裏切らないと言い切ってくれた。

「悠磨さん……」

 一気に感情が押し寄せて溺れそうだ。へたり込みそうな体を悠磨は逞しい腕でしっかり支えてくれる。