合理主義者な外科医の激情に火がついて、愛し囲われ逃げられない

 出会いも、結婚した過程も共に過ごす日常も自分たちは普通の夫婦とはかけ離れている。でも振り返るとどれも新鮮で楽しくて幸せだった。この先ふたりの関係が終わっても、せめて悠磨も『悪くなかった』くらいには思ってもらえたら嬉しい。

「そういえば瀬戸、先週アメリカの学会で、脳血管の移植手術について新しい手法が発表されただろう。あれはとんでもない技術だな」

「さすが先輩。あいかわらず専門分野外でもチェックは欠かさないんですね」

「あれは考えようによっては他に応用できる技術だからな。瀬戸はどう思った?」

「そうですね――」

 悠磨の表情は生き生きしており、考えを巡らせる瀬戸の表情も真剣だ。

「あ、それでしたら私、ちょっとお化粧室に行ってきますので、おふたりでゆっくりお話ししていてください」

 しばらくふたりで話したいだろうと気をきかせて鈴菜が声をかけると悠磨は「すまない」と目尻を下げた。

(そろそろいい頃かな)

 医療談義を邪魔しないようたっぷり時間を使い、丁寧に身なりを整え終えた鈴菜はパウダールームから出る。