合理主義者な外科医の激情に火がついて、愛し囲われ逃げられない

「悠磨さん、そろそろ葛西先生にご挨拶した方がいいんじゃないですか」

「ああそうだな、行こう。では増田先生、この後もいい時間を」

 即座にうなずいた悠磨は、すぐにこの場から離れたいとばかりに強引に鈴菜を方向転換させた。

「あの、増田先生失礼します!」

 去り際に頭を下げると増田は手をヒラヒラさせながら「はいはい、またね」と楽しそうに笑った。


「しかし、君があの本をしっかり読んでいたとは思わなかった」

 葛西教授への挨拶が終わり、その場を離れると悠磨は意外そうな表情で鈴菜を見た。

「思い切って読み始めたら引き込まれまして」

 病院で配られたからといって悠磨が家に持ち帰った葛西教授の著書、『手術室から見えたもの ― 命に触れた日々の記録』は、実体験を元にしたエッセイだった。

 生々しい表現も抑えられていて病院に苦手意識のある鈴菜でも読みやすかった。

『この本を読んで病院も〝人の思い〟があふれている場所だと気づきました。先生方も、すごく悩んで、迷って、それでも患者さんのために動いてくれているんですね。夫への尊敬の念が深まりました』