合理主義者な外科医の激情に火がついて、愛し囲われ逃げられない

 南フランスの邸宅をイメージして建てられた一軒家は、手入れの行き届いた庭にぐるりと囲まれている。

 晴れの日を時間に追われずに楽しんでもらえるよう、結婚式は基本一日一組となっており、自由が高いのが売りだ。

 カップルに館内を案内し、見送った鈴菜はオフィスに戻ってくる。

(今のお客様、ブライダルフェアの予約もしていただいたし、いい感触だったな)

 土谷の結婚式からすでに二週間。鈴菜の仕事は好調で、営業成績もぐんぐん伸びている。努力に対して成果が出るのは単純に嬉しくて、気持ちはだいぶ前向きになっていた。

(よし、溜まった雑務片付けちゃおう)

 だれもいないオフィスでパソコンに向かっていると、無造作にドアが開いた。

「ああ、鈴菜ひとりか。ちょうどよかった。この見積もり内容チェックして保存しておいてくれよ」

「土谷さん」

 土谷は近づいてくるなりファイルをずいっと差し出してくる。そちらに視線を向けて、鈴菜は思い切り顔をしかめた。

「それは、土谷さんの案件ですよね。手が空いていないので手伝えません。それと名前で呼ばないでもらえますか」

 結婚式以来、土谷とふたりで話すのは初めてだ。