合理主義者な外科医の激情に火がついて、愛し囲われ逃げられない

 悠磨は口の端を上げ、ネクタイを整えるようなしぐさをした。ライトネイビーのピンドット柄のネクタイはあのブランドショップで鈴菜が選んだものだ。

 顔が広い悠磨は次々と招待客から声をかけられた。そのたび彼はにこやかに挨拶、鈴菜を妻として紹介し、当たり障りなく会話をしてから自然に切り上げるパターンを何度も繰り返した。久しぶりに見たが相変わらずの完璧な外面だ。

 鈴菜も緊張しつつも、彼に倣い笑顔で対応していった。

「鈴菜、疲れていないか」

「はい、大丈夫です」

 やっと人が途絶えたので、ドリンクを取りにカウンターに足を向けようとすると見知った顔が近づいてきた。

「望月先生、お疲れさま」

 細身のスーツに身を包み、笑みを浮かべているのは悠磨の同僚医師の増田だ。

「増田先生、こんばんは」

 挨拶する鈴菜の全身に視線を行きわたらせてから増田はさらに目を細めた。

「鈴菜ちゃん、この前のスーツもキリっとしていてかっこよかったけど、今日のドレスもすごくいいね」

「恐れ入ります」

 どうやら増田は息をするように女性を褒める人のようだ。笑顔で返しているとグイッと腰を引かれた。

「えっ、悠磨さん?」