合理主義者な外科医の激情に火がついて、愛し囲われ逃げられない

 いつかとまったく逆の立場で立つ瀬がない。

(恥ずかしすぎて、「重かったですか」なんて聞けない……)

 乙女心を痛めながら小さくなる鈴菜に悠磨はボソリと声を落とした。

「くれぐれも無理はしないでくれ。君になにかあったら、仕事が手につかなくなる」

「悠磨さん……」

 なににおいても仕事を優先する悠磨が、冗談でもこんなことを言うなんて。

(少なくとも今は私、悠磨さんの特別な存在になれているんだ)

 彼に大切にされている。そう実感して鈴菜は自然と肩の力が抜けるのを感じた。

 日村からの電話を受けてから、鈴菜は妻としてすべてを完璧にこなそうとしていた。意地を張って無理をしていたのかもしれない。それで体を壊したり悠磨に迷惑をかけたりしたら本末転倒だ。

「すみません気を付けます。もうすぐ葛西先生のパーティもありますしね」

 悠磨は「ああ、頼む」と言って大きな口でトーストに噛りついた。

 あいかわらず悠磨は食べるのが早いが、以前に比べればだいぶ味わって食べてくれているように見える。
 そんな小さいことに鈴菜は幸せを感じた。