合理主義者な外科医の激情に火がついて、愛し囲われ逃げられない

 これ以上無駄な時間を費やしたくなかった悠磨は笑顔で言い残しその場を去った。鈴菜の様子が気になり、歩いているうちに日村のことはすぐに頭から消え去った。

「ただいま」

 マンションに着いた悠磨は玄関のドアを開ける。

 鈴菜が通勤で履いているパンプスが揃えてある。すでに帰宅しているようだ。しかし、いつもなら聞こえてくるはずの軽やかな足音がしない。

「鈴菜、いないのか?」

 靴を脱いで部屋に入る。ダイニングには食事が並びキッチンは綺麗に片付けられていた。サイドボードに飾られている花も最近では当たり前の光景なのに、一番必要なものが見当たらない。

「……鈴菜?」

(もう自分の部屋で寝ているのか)

 そう考えたとき、ソファーの背もたれの向こうで身じろぎする気配がした。すぐに前に回り込む。

「ここにいたのか」

 悠磨は息をついて苦笑する。部屋着姿の鈴菜がソファーの上に猫のように丸くなって寝ていた。

 すぐにしゃがみ込んで健康状態をチェックしたが、熱もなく脈も正常だ。

(寝息は穏やかだが、あまり顔色が良くない。やはり働き過ぎで疲れているんだな)