合理主義者な外科医の激情に火がついて、愛し囲われ逃げられない

 日村の話は的を射ていた。鈴菜は悠磨が優秀な医師だということは分かっていても、本当の意味で仕事の内容を理解することはできないし、もちろん手助けもできない。仕事を何より大切にする彼にとって必要なのは日村の方だ。そして女性としても彼女の方が求められている。

(私にできるのはこれまでどおり、悠磨さんがこの家に帰ってきたときゆっくり休める環境と食事をつくることくらいだ。妻でいる間は、今まで通り仕事と両立して悠磨さんが仕事に打ち込めるように生活を支えていこう)

 この家を出て悠磨から離れるときは辛いだろうし、心に大きな穴が開くだろう。でも好きにならないという約束を一方的に破ったのだから、その痛みを受け入る覚悟をもたなければ。

(大丈夫、私には仕事がある)

 今回のコンテスト受賞は、鈴菜がこれからも仕事に生きていけるように神様が与えてくれたきっかけに違いない。

 鈴菜は自分に言い聞かせながら、冷蔵庫のドアに手をかけた。


 それから一週間後、昼過ぎにオフィスで事務作業をしている鈴菜に璃子が声をかけてきた。

「鈴菜さん、これ発注数間違えてないですか?」

「えっ?」