合理主義者な外科医の激情に火がついて、愛し囲われ逃げられない

 すると電話の向こうで『お節介だったかしら』と鼻で笑う声が聞こえた。

『私、先生をずっと支えてきたし、過ごした時間もあなたより長いの。彼が医師としてどれだけ有能で貴重な人かもわかっているから、その価値が分からない人が妻で大丈夫かどうしても心配になってしまうのよ』

(価値がわからない……)

 鈴菜が返せないでいると、日村は『先生のこと、よろしく』と言って一方的に電話を切った。

「ダメだな私、ムキになっちゃって」

 力なく受話器を戻した鈴菜の口から自嘲めいた言葉が漏れた。

(これじゃまるで本妻と愛人の対決だ……ああ、でも実際そうなのか)

 戸籍上鈴菜は悠磨の妻だし、日村の口ぶりは妻に敵意を隠そうとしない愛人のものだった。

(なに浮かれてたんだろう。私が勤め先で賞を取ったからって、悠磨さんには関係ないのに)

 さきほどまでの晴れやかな気持ちは微塵もなくなっていた。

 そもそも彼は新郎役を引き受けてしまった行きがかり上、鈴菜としたくもない結婚をする羽目になったのだ。妻の仕事にまで興味を持つはずがない。

 同時に悠磨に勤務先の愛人がいても鈴菜は文句を言える立場ではない。