合理主義者な外科医の激情に火がついて、愛し囲われ逃げられない

 滅多に鳴ったことのない固定電話の音に驚きつつ、鈴菜は慌てて受話器を取った。

「はい、望月です」

「奥様。ご無沙汰しております。日村です」

(日村さん……)

 鼻にかかったような女性の声にドクンと心臓が跳ねる。

「……主人にご用でしょうか。まだ帰ってきておりませんが」

「知っているわ。今さっき病院から自宅に先生を帰したの、私だから」

 かしこまった言い方は第一声のみで、日村はすぐにぞんざいな口調になった。

 まるで、悠磨が自分の所有物かのような表現に、胸にやすりを当てられたような気分になる。

「……そうですか」

 なんのために日村は電話をかけてきたのだろう。

「昨日の夜は私たちが当直だったし、今日も難しい手術をこなしているの。先生お疲れのはずだからゆっくり休ませてあげて。それをあなたにお願いしておきたくて」

〝私たち〟をやけに強調しているのはわざとだ。彼女の悪意を感じ取り受話器を持つ手に思わず力が入った。

「ご用件はそれだけですか」

 返した声は自分でも驚くほど平坦だった。

「ご心配いただかなくても、主人が帰ってきたら自宅でしっかり休んでもらいます」