合理主義者な外科医の激情に火がついて、愛し囲われ逃げられない

 思えば、自分があそこまで明確にだれかに頼ろうとしたのはあれが初めてだったかもしれない。

「おかげさまで今日はいい気分転換になりました。まるでデートみたいで楽しかったです。いい思い出になりました」

 にっこり笑って、視線を目の前の夜景に移す。

 ショッピングからカフェ、そしてこうして手を繋いで夕日を眺めるなんて本当の恋人や夫婦のようだ。最初で最後になるかもしれないから、この景色を心に焼き付けておきたかった。

「俺はデートのつもりだったよ」

 憂いを含んだ声が鈴菜の鼓膜を震わせた。見ると彼は鈴菜から目を逸らしていなかった。

 いつしか夕日は完全に沈み夜の帳が下りていた。周囲には人影はなく、ビルの明かりがきらめいて悠磨の瞳に映り込む。

「新郎役を引き受けたのも、こうして結婚したのも君だったからだ」

 彼は繋いでいた手を離し鈴菜の髪を撫でた。

「悠磨さん?」

「俺たちは、夫婦だ」

 目を見開く鈴菜に彼は言い聞かせるような声を出した。大きな掌が首元に移動し髪をかき分ける。耳のうしろを指先で撫でられ、鈴菜の背中にゾクリとした感覚が走った。

 後頭部を支えられ、整った顔がゆっくり近づいてくる。