合理主義者な外科医の激情に火がついて、愛し囲われ逃げられない

「海水浴だったから景色はこれとはだいぶ違うな。忙しい父もめずらしく一緒だったから覚えている。家族揃ってどこかに行った最初で最後の思い出だな」

 悠磨の端整な横顔は夕日に照らされて陰影を深くしていた。

 両親は彼が幼い頃離婚し、純也と悠磨の世話はほとんど家政婦がしていたらしい。母親は新しい家庭を持ち縁が切れていると聞いていて結婚式にも呼ばなかった。

「母がいないのが当たり前で、それほど寂しく思ったこともなかった。そういう感覚自体生まれながらに冷たい人間なのかもしれないな」

「そんなこと」

 ありません、と続けようとした鈴菜を視線で優しく制した後、悠磨はまた前を向いた。

「子どもの頃から冷めていた自覚はある。医者になってからも、俺はどうすれば仕事がうまくいくか、効率的にこなせるかばかり考えていて、人の心の動きには疎い」

 彼自身はそれを嘆いているわけでもないようで、ただ事実を確認するかのような淡々とした口調だった。

(悠磨さんは頭が良すぎて、自分のことまで客観的にとらえてしまえるんだろうな)

 漠然と思いながら、どう返そうか考えていると緩く繋いでいた手に力が入った。