合理主義者な外科医の激情に火がついて、愛し囲われ逃げられない

(仕事ばかりで世話のかかる男と一緒にいるより、予定通り別れた方が彼女のためだ。頭では分かっているんだが)

「もう一杯だけもらったら帰る」

 兄の問いには答えず、悠磨は残った液体を煽った。


 タクシーでマンションに着いた悠磨は電子キーで扉を開け玄関で靴を脱ぐ。リビングには明かりがついていて、パタパタとスリッパの音が近づいてきた。

「お帰りなさい」

「ただいま」

 明るい顔の鈴菜に見上げられると、自然と笑みが浮かぶようになったのはいつからだろう。表情だけではなく心もほどけていく。しかし、鈴菜はふいに視線を逸らした。

「あの、午後お休みだったんですよね。どこかに出かけてたり……?」

 聞くのを躊躇しているような弱々しい声。最近増えた遠慮がちな態度がもどかしくなる。

「連絡していなくてすまない。急に思い立ってムーリット・アリーで飲んできた」

 はっきり告げると鈴菜の顔に安堵が浮かぶ。

「そうだったんですね。マスター、元気でしたか?」

「ああ、相変わらずだったよ。親父とのこと、すぐにとはいかないだろうけどいい方向に進みそうだ。君のおかげだ」