合理主義者な外科医の激情に火がついて、愛し囲われ逃げられない

 元恋人のわかりやすい選択を知り、大きな石が乗せられたように胸が重くなる。

 自分に一切関わるなと言ったくせに、結婚が決まったとき土谷は鈴菜にも招待状をよこした。

 周囲は自分たちを特に仲のいい同僚だと思っていたようだから、誘わないと不自然だと判断したのかもしれない。よくも元カノを呼べるなと呆れ、仕事を理由に断る気満々だったのだが、なんの因果か十一月の休日だというのに、その日だけ鈴菜の担当の式が入っていなかった。

 新婦が専務の娘ということもあり、招待客が多い。新郎側の出席者を少なくなってしまうのは格好がつかないだろう。支配人からも『平松さんも必ず出てね』と念を押されてしまったし、断ったら不自然に思われてしまう。

 土谷とのことは職場では隠したまま終わらせたかった。それにわが社一の規模を誇るホテルでのウェディングを見られるのは貴重な機会だ。せっかくだから勉強してやろう。そう割り切って臨んだ今日だったのに、元恋人の何重もの裏切りを目の当たりにするなんて思いもしなかった。