合理主義者な外科医の激情に火がついて、愛し囲われ逃げられない

 言われた通り土谷には表面的に同僚として接する以外関わらないようにしてきた。もちろん個人的にしてきたフォロー全般をやめ、自分がすべき仕事に集中した。

 そのかいもあったのか、ここ数か月の鈴菜の営業成績は土谷を抜いて施設内でトップになったし、お客様からのアンケートも鈴菜対応は丁寧だと高評価をいただいていた。

 そんな中、土谷が専務の娘と結婚するという話を聞き、さらに吹っ切れた。

(やっぱり私、自分の結婚よりも人の結婚をサポートして幸せな姿を見るのを糧に生きていこう)

 鈴菜はこれからは仕事に生きると決意した。ウェディングコンセプトコンテストに出す〝オーロラウェディング〟の企画書も連日深夜までかけて何度も手直しし、今までで一番自信があるものができあがったところだった。

(でも、あの企画書はもう使えない)

 今、列席している披露宴のコンセプトはすべて以前鈴菜が土谷に語ったものだった。土谷は鈴菜のアイディアを自分の企画としてコンテストに出した上、他の女性との結婚式に躊躇なく使ったのだ。胸が潰れる思いで鈴菜は膝に置いた手を握りこむ。