○回想・一期大学付属高校教室・昼・楓視点
楓モノ『小さいころから可愛いものや可愛い服が大好きだった』
楓モノ『合わせてメイクや髪型も可愛くするのが好きだった』
楓モノ『好きでおしゃれをしていたけれど、色白で二重の瞳であることも相まってか、可愛いと言われたり告白されることが多くなった』
楓モノ『同時に、同性からは快く思われなくなっていった』
中学生女子「楓ちゃんってぶりっ子だよねー」※陰口
高校生女子「色目使ってモテて楽しいのかね?」※陰口
楓モノ『いつしか教室は息苦しくなっていき、みんなの言葉を聞くのも怖くなっていった』
○回想・高校PCルーム・昼・楓視点
高校2年の下期開始の英語の授業の楓と奏斗。
1人1台のPCが並び、それぞれの席の間に仕切りがある自習室のような環境。楓はツインテールで毛先を巻いた髪型。
英語教師「では下期は2クラス合同で、ランダムに選ばれた2人で1対1で英語で会話してもらいます」
楓(会話…最悪…)(しかもランダム…)
楓モノ『私の状況に置いて一番最悪な形式だった。心臓が口から出そうなほど大きく波打って怖さが湧き上がってくる』『逃げ出したかった』
楓(回線エラーとか起きないかな…)
ヘッドホンを付け、PCの画面上に相手が映し出される。
奏斗「おっ!どうも~!よろしくね」
楓「……」※少し驚いた顔
奏斗「あれ?もしもーし?聞こえてる?」
楓「…あっ…すみません…聞こえてます…」
緊張と警戒しっぱなしだが、何とか答える。
奏斗「よかった~!」「遠山さんだよね?同じクラスになったことないし初めましてだね~」
楓(桐原奏斗…明るくてみんなの中心人物…私とは正反対の人…)
奏斗「いきなり1対1で英語で話せなんて、キツイよね~」
楓モノ『私への先入観などなさそうに普通に話しかけてくる彼を見て、少しホッとした自分がいた』
英語教師「こら!日本語で話したら意味ないでしょ」
奏斗「アハハ~…すんません」
画面越しに先生に怒られる奏斗を見て軽く微笑む楓。
その顔を見てホッとしたように嬉しそうにする奏斗。
楓モノ『週に1回のこの授業が私たちの出会いだった』
○回想・PCルーム・別日・昼・楓視点
笑顔で奏斗とPC上で会話する楓。
楓モノ『何回か授業を繰り返していくうち、彼への警戒心が解けてくると同時に私はどんどん英語にのめり込んでいった』
楓モノ『英語でのやりとりに必死で余計なことを考えずに済むし、当然陰口なんて言ったり聞こえて来る余裕もない』
楓モノ『普段の自分と違う自分で居られるようで学ぶのが楽しかった』
楓モノ『クラスでは相変わらずだけど、この英語の授業だけはすごく楽しみになっていた』
○回想・教室・昼・楓視点
楓モノ『あっという間に授業開始から2か月後が経った』
ある日の休み時間の教室。楓は窓際の席で1人で座っている。
楓(早く…英語の授業の日が来ないかな)
そんなことを考えている時、廊下の方から声が聞こえてくる。
女子1「奏斗くん!うちのクラスにどうしたの~?」
奏斗「遠山さんいる?」
楓(え…私?)
女子2「え…?楓ちゃん…?」※なんで?と怪訝な感じで
楓(なんで…教室に来ることなんてなかったのに)※ビクッとする
奏斗「あっいたいた、お~い!」
楓に気づいて手を振る奏斗。それに気づいた楓は目をそらし机に視線を移す。
楓(やめて…人気者の桐原くんに話しかけられたら注目浴びちゃう…怖い…)
楓(でも…)
楓(それ以上に…こんな自分を…見られたくない…恥ずかしい)
うつむき泣きそうな楓の元に奏斗が来ていた。
顔を上げ、涙目で奏斗を見る楓。
その顔を見た奏斗が楓の腕をつかむ。
楓の腕を掴んだまま引っ張り、廊下に連れ出す。
楓「ちょっ…!なに!?どこ行くの…!?」
楓(みんなの視線が痛い…)
奏斗「…ごめんね、ちょっと待って」
いつの間にか腕を掴んでいた奏斗の手は、楓の手を握っていた。
○回想・屋上・昼・楓視点
そのまま楓を屋上に連れてきた奏斗。
楓「ちょっと…!なんなの…!?」
転落防止の柵の前で、怒りながら奏斗の方を見る楓。
奏斗「……ごめん」「泣いてたから…つい…」
楓「みんなに見られて…どうすんのよ…変なウワサたったら…」
楓「「2人で抜け出したよ!」とか「付き合ってるの!?」とか言われるんだよ」
楓「もう教室戻れないじゃん…これからどうしよ……」
周りのウワサや視線におびえてパニックな楓。ずっと繋がれたままの手にも気づいていない。
奏斗「………なら」
奏斗「本当に付き合えばいい」
2人「……………」
楓「………は?」
何を言っているのか理解が追い付かない楓。
楓「じ、自分が何言ってるかわかってる!?そうやって冗談で何とかしようとするのやめて…」
掴まれた手を振り払おうとする楓だが、奏斗が強く握り離さない。
奏斗「…本気だけど」
楓「…っ」
奏斗の顔が真剣で否定出来ない。楓の顔が照れて赤くなっていく。
楓「だいたい…つ、付き合うって…わかってる!?好きな人と…だよ」
楓「人気者の桐原くんがこんな私を…そんなわけないでしょ?」
楓「なら…つ、付き合うなんて…おかしいよ」
楓(自分で言っていて悲しい…もう気持ちがぐちゃぐちゃ)
奏斗「………」
半泣きで真っ赤になりながらも怒ってる…そんな楓をじっと見て話を聞いている奏斗。
楓の言葉が止まり、少し落ち着いたところで奏斗が口を開く。
奏斗「……人気者ではないけど…」
奏斗「俺だって男だよ?」
楓を柵に寄りかからせ、その両サイドの柵に手をつき楓を囲い込むように話す奏斗。
その体勢にドキッとして驚きつつ、は?という顔で見ている楓。
奏斗「こんな可愛い子が俺にだけ笑顔見せてくれて、授業とはいえたくさん話してくれたら…普通に好きになるって」
奏斗「さっき…こんな私とか言ってたけど、俺にとっては…授業が待ち遠しくて、授業のたびにもっと話したいなって思ってた可愛い大切な子だから」
奏斗「授業以外でも話したり一緒に居る理由が欲しい」
真っすぐな言葉と視線にドキドキしてしまう楓。
楓「で…でも…私は……す、好きとかじゃ…」
奏斗「いいよ、遠山さんの言うウワサ?から守るために俺を使ってくれていい」
楓「そ、そんなこと…」
奏斗「とりあえず…始めてみない?」
楓の手を握る奏斗。
楓「……強引」
奏斗「うん、好きな子相手にはそうみたい、俺」※ニヤリと
○回想・屋上・昼・楓視点
楓モノ『冬に入る頃、そうやって始まった私たち。ウワサの件とは矛盾するけれど、みんなにバレる勇気もなく…隠れてのお付き合いとなった』
楓モノ『付き合って変わったことは毎日お昼のこの屋上で会うこととメッセージのやり取りのみ』
楓モノ『でも…たくさん話すようになり、名前で呼ぶようになり、距離が近づくようになり、キスをするようになり…』
楓モノ『日を重ねるごとにどんどん奏斗のことが大好きになっていった』
楓モノ『大好きで屋上の時間だけでは足りなくて…』
楓モノ『付き合って3カ月弱が経った頃、休日にデートをした』
○回想・街中・昼・楓視点
楓モノ『油断した』
奏斗と楓が手を繋いで街を歩いている時に、クラスメイトの女子たちと鉢合わせる。
女子1「2人…前…ウワサになってたよね」
女子2「やっぱり付き合ってるんだ…」
楓(バレた…まさか会うなんて…)
女子1「顔がいいとより取り見取りでいいねー」※コソコソ話してるつもり
女子3「奏斗くんも結局顔で選ぶんだねーガッカリ」※コソコソ話してるつもり
楓(やめて…奏斗のことまで悪く言わないで…)
反論しようとしている奏斗の腕を引っ張り、女子たちから離れようと歩き出す楓。
○回想・高校PCルーム・昼・楓視点
楓モノ『それ以降、私たちのウワサは瞬く間に広まった』
スマホ画面の楓からのメッセージ「しばらくお昼やめよう」を見て寂しそうな顔をする奏斗。
楓モノ『メッセージの回数も減り、顔を合わせるのも勝手に気まずくなり、あんなに楽しみだった英語の授業も気が重くなっていった』
英語の授業の画面上の奏斗「楓…大丈夫?」
楓「うん…」※泣きそうな表情
楓(奏斗はこんなに優しいのに…私が弱いせいで…)
○回想・楓の部屋・夜・楓視点
楓モノ『この直後、学年が上がるタイミングで英語の授業も終わり、同時に私たちの関係も終わった』
スマホのメッセージで「ごめん、終わりにしたい」と送る楓。
奏斗の返信「結局守れなくてごめん」
楓(謝らないでよ…何も悪くないんだから…)
大粒の涙を流す楓。
楓モノ『その後は卒業まで、出会う前のような全く話さない2人に戻った』
楓モノ『けれど……想いは断ち切れず…大学は外部受験する、そう思っていたのに…そのまま進学した』
楓モノ『勝手なことに奏斗への気持ちはずっと消えなかった』
○回想終了・別荘・女子部屋・夜
楓「あとはまぁ…そのまま現在に至るって感じかな」
楓「まさかお客さんとして入ったトラベルカフェで店員の奏斗に再会するとは思ってなかったけど」
楓「久しぶりだったからか普通に話せて。私が旅行や世界が好きなの知ってたから紹介してくれたんだ」
聞き入っていた和歌・結衣子・芽依。
楓「……って自分の話ばっかりしちゃったね、ごめん」
みんな首を横に振る。
芽依「改めて告ったりしないの?今は環境も違うよ?」
楓「…勝手な終わらせ方をしちゃったからね…」「今は普通に仲間として楽しく過ごせてるし、関係壊したくないなって…」
和歌(壊したくない…それもわかる…)
楓「さっこんな時間だし寝よっか!ごめんね、明日はみんなの話聞かせてね」
う~…と不満そうな芽依。
○別荘前の浜辺・朝
翌日早朝、みんなが寝ている中1人目を覚まして別荘前の浜辺に散歩に出ようとする楓。
玄関を出て浜辺に足を踏み入れようとしたところを誰かに腕を掴まれた。
楓「…?」
奏斗「何してんの?」
振り返ると少し息の切れた奏斗がいた。
楓「……え、散歩…」
奏斗「そんな薄着で…危ないから」
パジャマとして着ていたキャミワンピ1枚で外に出ていた楓。
危ない?とキョトンとしている楓に、堪忍の緒が切れたように話し始める奏斗。
奏斗「……ごめん、先に謝っとく」
楓「…?」
奏斗「…楓のこと困らせること言うよ」
楓の頭に?マークが増えていく。
奏斗「楓が今の環境大切にしたいって思ってるのはよくわかってる。その思い大事にしてあげたい、でも…」
奏斗「楓とまたこうやって会えて話せて…かたや、そうやって無防備でいつ誰に取られるかわからなくて…もう俺は抑えるのは無理」
奏斗が言っていることに理解が追い付かない楓。
それをわかっていても畳み掛ける奏斗。
奏斗「楓……好きだよ」「あれからずっと…この気持ちが変わったことなんてない」
目を開いて驚く楓。
奏斗「楓は俺にとってずっと変わらず…可愛い大切な子だよ」
楓「……なんで…今…」
奏斗「この1年、楓楽しそうだしこのままでも…って思ってたんだけどね」
奏斗「この前の文化祭の反応見て確信した…そう思ったらもう動こうって」
奏斗「悪いけどまた強引にいかせてもらう」
ニヤリと笑う奏斗。
楓「…でも…私は…」
否定の言葉が思い浮かばず、ごもごもと言いよどむ楓。
その様子を見て更に微笑む奏斗。
奏斗「あとね、いいこと教えてあげる」
奏斗「楓が成長したように、周りも成長してるんだよ。もちろん俺も」
奏斗「だからきっと大丈夫、今度こそ守るから」
目に涙を浮かべて奏斗を見る楓。
焦れた奏斗が楓を抱きしめる。
楓「…なっ……」
驚きつつも抵抗はしない楓。
しばらくして、諦めたように抱きしめられたまま楓が話し始める。
楓「……私またウジウジ考えちゃうかも」
奏斗「全部受け止めるから」
楓「女々しいし…」
奏斗「知ってる」
楓「重いし…」
奏斗「それは嬉しいな」
楓「和歌ちゃんたちとも…侑士さんたちとも…やっとできた友達で…このままもっと仲良くしたい」
奏斗「………和歌ちゃんたちとはいいと思う」
楓を解放し、キスしようと顔を近づける奏斗。
楓「えっ…ちょっ…待っ」
奏斗「散々待った」
そう言ってキスをする奏斗。角度を変えて何度も何度もする。
やっと解放された楓は真っ赤な顔で照れながら、睨むように奏斗を見る。
文句を言われる前に再度軽くキスをし、楓の耳元で囁く。
奏斗「朝でよかったね…夜だったら…」
奏斗「もう大学生だし…高校生の頃できなかったこともさせてもらうから…覚悟してて」
〇同刻・別荘テラス・朝
起きてきた和歌がテラスに出てきて、たまたま見かけた奏斗と楓の様子を見ている。
和歌(………楓さん…奏斗さん…)
和歌(よかった…)
キスシーンに遭遇し照れながらも見て申し訳ないと思いつつ、2人への嬉しさがこみ上げる。
香坂「…やっとくっついたか」
突然後ろから聞こえてきた香坂の声に驚き振り返る和歌。
和歌「こ、香坂さん…」
和歌(またメガネ…)
和歌(余計に昨日のこと思い出して…顔が見れない…香坂さんは覚えてないんだろうけど)
顔をそらしながら心臓がバクバクしている。
香坂「…戻ってるし」
和歌「え?」
香坂「名前…昨日言ったのに」
和歌「え…なんで……だってあれは酔ってて…」
香坂「バッチリ覚えてるけど」「眠かったけどそこまで酔ってないからね」
和歌(え…なら昨日のは…)
昨夜のことが蘇ってきて赤くなりながらうろたえる和歌。
そんな和歌を見て香坂が悪い笑みを浮かべ、和歌の手を掴む。
香坂「昨日のアレ…なに?」
和歌「あ…アレとは…?」※しどろもどろ
香坂「俺のこと抱きしめてくれたやつ」
――第6話終了――

