○大学構内・文化祭開催直前・トラベルカフェ前屋外・朝
和歌モノ『梅雨が明け 初めての大学のテストが終わり』※それぞれ勉強している様子
和歌モノ『本日は夏休み前のビッグイベント 文化祭』
和歌モノ『文化祭に合わせて大学周辺のお店も出店を出すので、地域一帯でお祭りみたいに盛り上がるらしい』
香坂以外みんな勢ぞろいでトラベルカフェで朝の準備をしている。
今日の衣装は女子は動きやすくシンプルな漢服で男子は甚平。和歌と結衣子はツインのお団子、楓はツインテールで漢服に合わせた髪飾りを付けている。
和歌(すごい熱気…準備も楽しい)
奏斗「みんな可愛いね~こっち向いて~!」
女子3人を写真でとる奏斗。
和歌(バイトを始めて…初めて着る服ばかり着れてテンション上がる…)
理人「みんな今のうちランタン書いちゃいなね」「忙しくなると時間ないかもだから」
和歌モノ『最大のハイライトは日が暮れた後に参加者1人1人が願いを書いたランタンを飛ばすこと』
和歌の手のひらより少し大きいサイズのオレンジ色の紙風船のようなランタン。
和歌モノ『と言っても本当に飛ばすのではなく、糸で繋がっていて風船を持つ要領らしい』
和歌(ランタン飛ばすの…香坂さんを誘いたい…)
和歌モノ『今日の目標…勇気を出す』
和歌モノ『そんな雰囲気に合わせて、今日のカフェは台湾メニューを店頭販売予定』
和歌(マンゴーかき氷に豆花にタピオカミルクティー…おいしそう)
和歌モノ『たくさんのランタンが空に浮かぶ光景はとても綺麗らしく、楽しみにしている…』
和歌モノ『のだけど…』
和歌(願い…いざとなると…何を書こう……)
きょろきょろとみんなを見回す。
隣で結衣子が「医学・勉強」と書いているのが見える。
和歌(勉強…結衣ちゃんすごいな…)
奏斗「至なんて書いたの~?」
そういって至のランタンをのぞき込む奏斗。
奏斗「………プログラミング新コード…至らしい!」
奏斗「俺はね、アメリカのルート66に行く!グランドキャニオンと合わせてアリゾナ周辺のあの壮大な…アメリカ西部らしい風景撮りまくりたいよ」
至「…去年もそれじゃなかった?」
奏斗「ずっとお金貯めてんだよ…」
楓「私も似てるな、英語でアメリカ周遊!」
2年ズが楽しそうに話す様子を見ている和歌。
和歌(奏斗さんはカメラ、至さんはプログラミング、楓さんは語学とか海外経験。結衣ちゃんもお医者さん目指して頑張ってる…)
和歌(みんなすごいな…ちゃんとやりたいことあって、自分を持ってて…)
羨ましそうにみんなを見る和歌に気がついた理人が声をかける。
理人「…和歌ちゃん、また考え込んでるね?」
和歌「う…すみません」
和歌「みなさん、夢とかやりがいを持っていてキラキラしてるなって」
奏斗「和歌ちゃんはない?これやりたくて大学入った!とか」
和歌「私…特にやりたいこともなく、この大学も学部多くて色々な人がいて楽しい大学生活送れそうだからって理由だけで志望して…」「なんなら理学部なのも古文苦手だから…そんな理由で…」
和歌「将来のこととか何も考えずに今までのん気に過ごしてたんだなって」
和歌(むしろ友達作りとか…もっと前の次元で悩んで必死で…やっと少し前進できたくらいで)※トホホ顔
聞いていた理人が口を開く。
理人「楽しい大学生活…立派な理由だよ。大人になったからこそ思う大学生ってさ、お金はないけど時間はある、社会人になるまでの猶予期間だなって」
理人「羨ましいくらいかけがえのない時間だから、今を全力で楽しんで欲しいし、大学入ってから将来の道を見つけるでいいんだよ。なんならやりたいことなんて、入った時と変わったり、それとは全く違う仕事を選んだり、卒業する時にも見つからなくてなんとなく就職したり…そんなもんだよ」
みんなが理人の言葉を聞き入れる中で、構内放送が聞こえる。
放送「開門15分前です。各自持ち場に……」
理人「さあ、準備に戻ろっか」
香坂「わり、遅れた」
息を切らせて香坂がやってきた。
和歌(香坂さん…)※ドキッ
奏斗「遅いですよ~寝坊ですか?」
香坂「ゼミの方の出し物の準備で今朝まで缶詰だったんだよ。今日はこっちにずっといるから、その分準備はね」
奏斗「あっそうだ、俺サークルで途中少し抜けます」
楓「私も」
結衣子「あっ…私も学科の方に少し行かないとで…」
理人「大丈夫だよ、行っておいで」
理人「至も今日はずっと本部の助っ人なんでしょ?もう行っていいよ」
奏斗「至のプログラミングで各所監視したり、混雑度表示したり、公演スケジュールの更新したりするんでしょ、すごいな」
至「暑いしあんま行きたくないけど……行ってくる」
香坂「その時間帯、俺と和歌の2人だから頑張ろうね」
和歌「は、はい…!」(香坂さんと2人…)
和歌(気持ちを自覚してから…会うたび意識しちゃうし緊張する…)
少し赤くなりながら緊張する和歌。
香坂「…大丈夫?朝早いからまだ稼働してない?」
ニヤリと笑う香坂。
和歌「…大丈夫です、楽しいことでは起きられます」※照れながらもクールに
香坂「ははっ、都合いいな」※ケラケラ
和歌モノ『でも…会えて嬉しい、話せて嬉しい…と1回1回心が跳ね上がる…こんな気持ちになるとは』
和歌モノ『誘うの…頑張りたい』
??「おはよーございまーす♪」
背後から元気の良い声が聞こえてきた。
理人「おっ来た来た。一応ね、助っ人呼んでおいた」
??「藤野芽依(ふじの めい)でっす!って言ってもみんな知ってるね、ハハッ」
和歌モノ『この方はトラベルカフェの向かいのお弁当屋さん「ねこ弁当」でバイトしている経営学部2年の芽依さん』
和歌モノ『お互いお客さんとして訪れたり、おすそ分けしたりと店ぐるみで仲良くさせてもらっている』
香坂「相変わらず朝から元気だな…」「でも助かるよ、よろしく」
奏斗「お店いいの~?」
芽依「もう仕込み終わってその数出すだけだからね、私はフリータイム♪」
和歌モノ『いつも元気でその場を明るくしてくれる、素敵なお姉さんだ』
放送「開門します」
和歌(あ…始まる…)
香坂「和歌、楽しもうな」
和歌「は、はい」※照れながらも嬉しそうに
○続・文化祭・トラベルカフェ前・屋外・昼
楓「ありがとうございました!」
和歌モノ『文化祭が始まって1時間弱、有難いことにお客さんは途切れることなく来てくれて大忙しだ』
店の前の道を制服を着た学生たちが歩いている。
奏斗「懐かしい~俺と楓も着てたんだよあの制服」
芽依「2人とも附属高あがりなんだっけ?」
奏斗「うん、エスカレーターだし勉強もそんなにしてない」※テヘ
楓「私は学部選びたかったしちゃんとしてたけど…」※あきれ顔
和歌(そっか…2人は中学から一緒なのか…)(いいな、そういう関係)
○続・文化祭・トラベルカフェ前・屋外・夕方
和歌・香坂・芽依で接客している風景。
和歌モノ『その後も芽依さんのおかげもあり大盛況を乗り切り、夕方には完売となった』
理人「お疲れ様、みんな最後までありがとう」
理人「和歌ちゃん、初めての文化祭なのに回れなくてごめんね」
和歌「いえ、売り子の経験もなかったので楽しかったです」
理人「あとはもう俺がやっとくからランタンだけでも飛ばしておいで」「芽依ちゃんもありがとう」
芽依「は~い、またいつでも♪」
その場に残る香坂と和歌。
チラッと香坂を見る。
和歌(今だ……が、頑張れ私…)
和歌「こ、香坂さん…」
香坂「ん?」
緊張してもごもごしている和歌。
和歌「…い、一緒に…ランタン飛ばしに行きませんか?」
緊張してドキドキしながら誘ってみる。
香坂「ふっ改まって何かと思ったわ」
香坂「…普通にそのつもりだったけど」
優しく笑いながら和歌を見つめる。
和歌(そのつもり…嬉しい)
和歌「なら早くいきましょう、時間ありませんし」※ツンと照れ隠し
香坂「はいはい」
○法学部館802ゼミ室・夕方
香坂おすすめの場所から飛ばそう、と言うことで法学部館にある8階の802ゼミ室にやってきた2人。
和歌「私本当に…入っていいんですか…?」
香坂「大丈夫、許可もらってるから」
香坂「ここ俺のゼミの教室なんだけど、そこのバルコニーからの眺めが最高なんだよ」
そう言って2人で教室の奥にあるバルコニーへ出る。
和歌「本当だ、いい眺め」「8階って初めて来ました」
香坂「まあゼミ系の教室ばっかだしね、1年生はまだ使わないよね」
夕日が沈み始めている。
和歌(2人きり…)※ドキドキ
和歌モノ『香坂さんは…私のことどう思ってるんだろう…』『こうやって2人きりになったりするし嫌われてはないと思いたい…のだけど…』
和歌(今日も明らかに香坂さん目当ての女子には塩対応だったし…)※呆れ
和歌(まぁ私のことはバイト仲間として放っておけない、って気持ちが強いのかな)
和歌モノ『それでも…少し特別なんじゃないかって…うぬぼれてしまいそうになる』
和歌モノ『怖いけど…気持ちを知りたくもある…先に進めたらって…』
和歌「そういえば…香坂さんはランタンなんて書いたんですか?」
香坂「俺?…これ」
自分のランタンを手に取り願いを書いた部分を和歌に見せてくれる。
和歌「司法試験合格…」
和歌「……受けるんですか?」
香坂「再来年ね、卒業した後。来年は4年になるし、勉強詰めでバイトもあんま来れなくなりそう」
和歌「そう…なんですか……」
想定外の事実に衝撃を受ける和歌。
和歌(…司法試験…きっと…勉強大変だよね…)
和歌(邪魔になっちゃうだけだ…)
和歌(特別かもとか、先に進みたいとか…バカだな…)
香坂「和歌…?どした?」
優しく問いかけてくれる香坂に笑顔を作って答える。
和歌「…なんでもないですよ」
和歌モノ『この気持ちは…このまま…しまっておこう』
和歌「香坂さん、ペン借りてもいいですか?」
香坂「あ、ああ…」※ペンを和歌に渡す
和歌(書くこと決めた…)※ランタンに書く準備をする
○同刻・大学構内・屋外・夕方
助っ人バイトも終わり、1人歩いて文化祭を回る芽依。
芽依「…ん?」
校舎の陰で壁に手をつきフラフラしている人を見つけ近づく。
芽依「ちょっちょっと…!大丈夫ですか!?」
??「……ん」
辛そうにしているその人の顔をのぞくと、なんと至だった。
芽依「い、至くん!?」
話しかけられたのが知り合いの芽依であることが分かり、安心したのか芽依にもたれる至。
芽依「ちょっ…大丈夫!?」
至「暑い…ダルイ……家…ベッド……」
芽依にもたれたままの状態の至を見て芽依は困惑。
芽依「も、もう~…とりあえず連れてってあげるから!」「1人暮らしだよね?家どっち?」
○同刻・トラベルカフェ付近・屋外・夕方
クラスの当番を終えトラベルカフェへ向かっている結衣子。
結衣子(すっかり遅くなっちゃった…もう終わっちゃってるかな…)
ドサッ
急いでいて男の人にぶつかってしまう。
結衣子「あっ、すっすみません!」
男1「あ~キミ、医学部のお嬢様っしょ?」
男2「マジ?お~実物かわいいじゃん」
男3「1人?ランタン一緒にやる~?」
結衣子「すみません…急いでて…」
男1「あのカフェに戻るの?俺たちも行っていい~?お客様だよ~?」
ニヤニヤと笑いながら結衣子を見る男たち。
結衣子(この人たち…カフェで働いてること知ってる…)
結衣子(下手に扱うと…カフェの評判落としちゃうんじゃ…)
返答に困っていると自分と男たちの間に、誰かが割って入ってきた。
理人「おかげさまで完売したんですよ」
それが理人だとわかり驚く結衣子。
理人「良ければまた、いらしてくださいね」※裏がありそうな笑みで
男たち「あ、ああ…」
去っていく男たち。
結衣子「すみません、ありがとうございます…!」
理人「大丈夫?間に合ってよかった」
そういって頭をポンポンする理人。
理人「ただ…お店のこととか考えたでしょ。今後それ禁止」
理人「結衣子ちゃんの方が大事。わかった?」
結衣子「はい…」※照れながら
店に戻る理人の後ろを結衣子は赤い顔でついていった。
○法学部館802ゼミ室・夜
和歌「わぁ…」
ランタンが一斉に夜空に浮かぶ。
和歌と香坂もバルコニーから一緒にランタンを飛ばしている。
夜空を眺めながら、少し経ったころ香坂が聞いた。
香坂「結局、和歌は何を書いたの?」
和歌「あっ…これです」
飛ばしていたランタンを手元に手繰り寄せ、香坂に見せる。
香坂「…現状維持」
え…?という表情の香坂。
和歌「私今、すごく楽しくて。カフェのみんなと出会えて毎日楽しく過ごせて…高校生の頃憧れてたことをどんどん実現できてるんです。これ以上望んだら罰が当たっちゃいます」※微笑みながら
和歌「これも…香坂さんと出会えたおかげです」
ランタンの光に照らされながら微笑む和歌に見とれる香坂。
香坂「……もう俺…我慢できないかも」
和歌「え…トイレ行きます?」「ランタン持っておきますよ」
香坂「なんでだよ」※ツッコミ
和歌「え、だってトイレ我慢…」
そう言う和歌の顔に、隣にいる香坂の顔が近づいてきた。
驚く間もなく、唇が触れる目前の距離まで更に近づいてきた。
もうすぐ触れそう、というところで…
ピュルルルルー ドォン!
事態がのみ込めず、固まる和歌。
後ろで夜空に花火が打ちあがった。
○同刻・トラベルカフェ店内・夜
結衣子「わ、ここからでも少し見えますね」
理人と2人で店の片づけをしながら、ガラス窓から外の花火を見る結衣子。
理人「行ってよかったのに。片づけ手伝ってもらっちゃってごめんね」
首を横に振る結衣子。
結衣子「いいんです。ここに…居たかったので」
頬を赤く染めながら微笑む結衣子。
○同刻・至自宅・夜
ベッドで寝ていた至が目を覚ます。
芽依「おっ目覚ました?気分はどう?」
ベッドの横の床にちょこんと座っている芽依が話しかける。
至「…………なんでいるの?」
芽依「キミが連れてきたんけど!?」※冗談で怒りながら
芽依「お家あがって、ずっとお邪魔してるのもどうかと迷ったんだけど…」「さすがに置いては家から出れなくて」
辺りを見回し、芽依が色々と面倒見てくれたことを察する至。
床に置いてある2つのランタンを見る。
至「…ごめん…ランタン」
芽依「ぜーんぜん!元気になったのが一番♪」「ってかまだ終わってないしね。ベランダ出ていい?」
そう言って2人分のランタンをそれぞれの手に持ち、ベランダに出て飛ばす芽依。
芽依「至くんの分も。届け~!」
笑顔の芽依の横顔を見ている至。
自分もベランダに出る。
芽依「えっもう大丈夫なの!?」
至「うん」
芽依「熱中症かな…?無理は禁物だからね!」
至「ずっと外にいたから…陰キャのオタクに本部仕事は無理だった」
脱力してズルっと前の柵に寄りかかる。
芽依「もう!」
芽依「陰キャとかオタクとか…立派な1人のプログラマーでしょ」「かっこよかったよ、今日のも」
少し怒りながら真剣に伝えてくれる芽依に照れながら(※表情にはほぼ出ない)夜空を見上げる至。
花火があがる。
その後も話しながら笑顔で花火を見る2人だった。
○同刻・附属高校屋上・夜
大学に隣接する母校、附属高校の屋上の手すりにもたれてランタンが浮かぶ空を見上げる楓。
奏斗「やっぱりここにいた」「去年もここから飛ばしたもんな~」
楓「…奏斗」
楓の隣に来る奏斗。
奏斗「懐かしいね、あの頃も…よくここに来たし」
奏斗「今日の楓のその髪型も高校の頃を思い出すわ」
楓「うん…」
カメラを構え、ランタンが浮かぶ空を撮る奏斗、その横顔を見つめる楓。
楓「……奏斗の真剣にカメラのぞくとこ、やっぱ好きだな」
ボソッと小さな声で無意識につぶやいたが奏斗の耳にも届いている。
奏斗がカメラから目を離し、真剣な顔で楓を見る。
声に出てたことに気づき、普段の落ち着いた様子とは違い慌てて焦る楓。
楓「…ちっ違う!カメラのぞく姿がね!」「こっ高校のころから変わらず…な、懐かしいなって思っただけ」
楓「べっ別に…深い意味なくてっ…」
奏斗「わかってるよ」
そう言って楓のツインテールの一束触れる奏斗。
楓「別にもう…私はっ…」
奏斗「…楓」
髪に触れている手をクルクルして奏斗の指に髪を巻き付ける。
奏斗「否定しすぎると逆に…俺のこと意識してるみたいだよ」
楓「……っ」
奏斗「ランタン、飛ばさないの?」
普段の奏斗とは違う、真剣な少しSっ気のある顔で楓の目を見る。
後ろで花火があがる。真っ赤な楓、でも奏斗から目をそらせず見つめ合う2人。
和歌モノ『それぞれも想いが動き出し 夏がやってきます』※和歌、結衣子、芽依、楓の表情を出しながら
――第4話終了――

