○大学内大教室・昼間
和歌モノ『――無事トラベルカフェの正式メンバーになって1か月 梅雨の季節がやってきた』

授業も終わり、和歌は荷物をしまいながら隣に座る美人な女の子と話している。
美人の女の子「ふ~終わった…この授業出席必須だし、ちゃんとノート取らなきゃだし疲れるね」
美人の女の子「でも和歌ちゃんみたいな学部違う子と一緒に受けられて面白いな。大学生って感じ」
和歌「確かに」※顔見合わせて微笑む
和歌モノ『この子は先日トラベルカフェに入った、宝生結衣子(ほうしょう ゆいこ)ちゃん』
和歌モノ『同じ1年で心強い』『なにより…私の低い対人力にも気にせず一緒に居てくれて…今までの悩みがウソのようにすぐに仲良くなれた…嬉しい』
和歌モノ『こんなに可愛くて、医学部でなんと…お嬢様らしい…ウラヤマシイ』
和歌モノ『結衣ちゃんは店長と家同士のつながりがあって、その縁でバイトすることになったらしい…店長は何者なんだろう…』

和歌と結衣子が荷物をしまっていると後ろの方から声が聞こえてきた。
女子1「あの子たちでしょ、トラベルカフェの新入生2人組」
女子2「そうだ、見たことあると思ったら!」
女子1「いつも香坂さんと居られるなんていいよね…あんなかっこよくて法学部の成績優秀者…」
女子4「あまり女子と絡まないし謎多いよね」
女子3「香坂さん以外のメンバーも!やっぱかっこいい人の所にはかっこいい人たちが集まるのかね」
女子2「あの子たちどうやって入れたんだろ…ウラヤマシイ…!」
和歌と結衣子で聞き耳をたて、2人とも圧倒されている。
和歌(またか…)
結衣子「す…すごいんだね…カフェの先輩たち」※小声
和歌「うん…」※小声
和歌(覚悟決めて入ったけど…やっぱりまだこういう環境にはドキッとしてしまう)
結衣子「どうやって入ったと言っても、知り合いで人数足りないから誘われて入っただけだけどね」※小声

和歌モノ『メンバーの採用に関して店長に聞いてみたら「わざわざ新規募集かけないから、メンバーからの紹介になってるけど、男子限定でもないし謎めいてるわけでもないんだけどね。結衣子ちゃんは、もうすぐ戻ってくる楓を入れても人少ないから親経由でお願いしたんだ」とのことだった』
結衣子「さ、そのバイトに行こっか」
全く臆せず席を立つ結衣子とそれに続く和歌。
和歌(結衣ちゃんカッコいい…私も…強くなる…!)


○トラベルカフェ女子更衣室・昼間
2人でバイトに向けて制服に着替えている。
結衣子「このアジサイみたいな青と紫の色味が可愛いよね」
和歌モノ『梅雨の時期を少しでも盛り上げようという店長の方針で、今月はこの和装が制服で、和のメニューのフェアをやっている』
和歌モノ『動きやすいように上下セパレートになっていて、淡い紫を基調にして襟元や袖、裾に水色が入っている』
結衣子「この期間限定イベや合わせた制服は、今不在の楓さんが提案したことらしいよ」
和歌「すごい…」(楓さん…どんな人なんだろう…まぁきっとイケメンな気はする…)
和歌(もうすぐ戻ってくるんだっけ…会えるの楽しみ)

着替え終わった頃、更衣室のドアが開き1人の可愛い女子が入ってきた。ゆるふわロングの髪が可愛さを引き立てている。
ゆるふわ美少女「あっ…ごめんなさい、人がいると思わなくて…」
大きな瞳に色白の綺麗な肌、お人形さんのような美少女が立っている。
和歌(あれ…この人確か…東京タワーで…)
ゆるふわ美少女「…そっか、入ってくれたっていう新入生か!」
和歌&結衣子「…?」
ゆるふわ美少女「遠山楓(とおやま かえで) 文学部の2年です。旅行のようなプチ留学のような形でロンドンから先日帰国しました」
和歌(…楓さん!?)
和歌(……女の人だったんだ)(てっきり男の人かと…)
楓「不在の間、ご迷惑をおかけしました。代わりに入ってくれてありがとうね」
楓「今日から復帰です!よろしくね」
和歌&結衣子「お願いします…!」
2人を見て楓が微笑む。
楓「今年もこの制服の季節か…」
楓「ね、2人とも髪いじっていい?せっかくだからもっと可愛くさせてほしいな」


○トラベルカフェ店内・昼間
制服を着てバイト開始のために店内にやってきた3人。和歌はサイドを編んだハーフアップ、結衣子と楓は編み込み三つ編み。
理人「おっ可愛いね。楓かな?好きだもんなこういうの」
理人「ってことは挨拶は済んでるのかな?」
可愛くなった和歌を見つめる香坂。不意に和歌と目が合い逸らすところを楓が見ている。
楓「可愛いですよね、和歌ちゃん…」「珍しいですね、デートするなんて……東京タワーとか」※コソっと、知ってますよと悪い笑みで
香坂(げっ…)「やっと帰ってきたか、サボり学生」
楓「侑士さんお久しぶり。ご迷惑をおかけしましたー」※棒読み
お互い心を開いて仲良さそうな雰囲気に少しモヤっとする和歌。
和歌(なんだろう…なんかモヤモヤする)
理人「さて、オープンするよ」

楓も加わり、バイトが始まった。梅雨フェア中だからか、いつもよりお客さんもたくさん。
和歌(ふう…次は片づけたらこれ運んで…ラテアートに時間かけられないな…)
さすがの和歌も手一杯な状況で、急いで食器を片付けようとした手を誰かに止められる。
和歌「?」
楓「ここは大丈夫。素敵なラテアートよろしくね!」「私不器用でできないからすごいよ~」
和歌「あ、ありがとうございます…」

カウンターのドリンクエリアに戻った和歌。
和歌(可愛くて落ち着いていて優しくて丁寧で気遣いもできて…すごい…無敵だ…)
至「和歌…!」
和歌「…熱っ!」
楓のことを考えていて手元のラテを入れすぎてこぼしてしまった和歌。
和歌「すみません、至さん」(私のバカ…)
至「いいから…すぐ冷やして」
そんな2人のやり取りを、相変わらずお客さんに捕まりながら香坂が遠くから見ていた。


○閉店後・トラベルカフェ店内・夜
理人「みんなお疲れ様」
奏斗「ふ~忙しかったね!楓見に来たお客さんもいたしね」
和歌(本当…男女関係なく声かけられて認められてて…すごかった)
奏斗「楓も改めて、おかえり」
楓「ありがと」
奏斗「しかし新学期最初の1か月授業休むとは…勇者だね~単位平気なの?」
楓「出席取らないテスト1発勝負の授業ばっか取ったから大丈夫」※ドヤ
奏斗「すご…俺はテスト1発は無理だわ…」
和歌と結衣子の方を向く楓。
楓「2人もね、出席重視の授業かテスト勝負の授業がいいか…よく考えて選ぶんだよ。あと、教授が自分の研究大好きで学生の授業どうでもよさそうな人の方が、単位くれやすいんだよね」
香坂「華の1年生に悪いこと教えるなよ」
楓「もとは侑士さんが私たちに教えてくれたことでしょ?」
楽しそうに話す2人。そんな2人を見て和歌はまたモヤモヤした。
和歌(またこのモヤモヤ…なんでだろう)(楓さんがすごい人すぎて…比較して卑屈になってるのかな…)
和歌(ダメダメ、ネガティブバイバイ)※ポジティブに
楓「そうだ!和歌ちゃん結衣ちゃん」
楓「週末みんなで鎌倉行かない?って話してて。アジサイが見ごろなの」
和歌&結衣子「アジサイ…」
顔を見合わせる2人。
和歌&結衣子「行きたいです!」


○週末鎌倉・長谷寺・昼・晴
週末、長谷寺にやってきた一行。カフェは休業日にして理人も来ている。
アジサイが咲き乱れるあじさい路を歩く。あたり一面にアジサイが広がり、その先には由比ヶが見え感動する一行。
一同「わ~!」
理人「これは…ここまでの登りの疲れも吹き飛ぶね」
楓「晴れてよかったですね」
奏斗「さすがアジサイの名所、すごい綺麗!」
趣味であるカメラを片手に辺りの写真を撮る奏斗とは対照的に疲れ果てている至。
香坂「…至大丈夫?」
至「……インドア人間にはつらい…」
理人「まさかここに入るのが事前予約制なんてね…楓手配ありがとうね」
楓「いーえー」
楓「この混雑っぷりだし、このあじさい路はくだっておしまいだけど、その下に見晴台があるみたいだからそこ行きましょう」「至そこまで頑張ってね」
楓「お昼はお蕎麦予約してます!」「午後はせっかく近いし大仏行とか行ってもいいかなって」
香坂「いいね、さんきゅ」
和歌(お昼の予約まで…完璧な計画なのに、時間に追われる感じしない…楓さんは本当にすごいな…)
少し落ち込んでしまう和歌であった。


○続・長谷寺・昼
あじさい路からくだり、少し開けた海が見える見晴台に来た一行。香坂と楓が話している。
香坂「ロンドンどうだった?」
楓「最高でしたよ!大英博物館でロゼッタストーンも見れましたし、ユーロスター乗ってパリ、ベルギー、オランダと回ってきました」
香坂「最高じゃん…」
楓「侑士さんみたいにペラペラだったらもっと楽しめるんだろうなって思うとやっぱり話せるようになりたいですね」
香坂「そんな変わらないくらい話せてるよ」
楽しそうに話す2人を見て胸がきゅっとする和歌。

理人「和歌ちゃん、考えごと?」
和歌「…え」
いつの間にか隣にいた理人に話しかけられ驚く和歌。奏斗も隣にいる。
理人「当てていい?……楓と自分を比較してる、かな?」
ギクッと言う顔になる和歌。
和歌(バレてる…)
と諦めて話始める。
和歌「…はい…楓さん優しくて気さくで気配り上手で…それでいて可愛くて…本当にすごくて…少し卑屈になってました、すみません」
和歌「あと香坂さんとあんなに心許して話してるの見て…モヤモヤして…」
2人で顔を見合わせる理人と奏斗。
理人「アジサイの花言葉って知ってる?」
和歌「…?」
突然どうした?という顔でポカンとする和歌。
理人「移り気、浮気、無常…」
和歌「意外に不穏な言葉なんですね…」
理人「でも他に、家族、和気あいあいっていうのもあるんだって」
和歌「へえ…」
理人「何が言いたいかってね、1つのことにも色々な見え方や側面があるんだよ」
和歌「?」
理人「楓はああやって余裕にこなしてるように見えるけど、今日も事前にめちゃめちゃシミレーションしてたし、和歌ちゃんたちと初めて会う日なんて、めちゃめちゃ緊張して朝からカフェで挨拶考えてたよ」
理人「…和歌ちゃん、少し前に他の子の視線気にして服装とか目立たないようにしてたでしょ?」
和歌(バレてた…)
理人「ふっ…去年の楓も同じだったんだよ。なんなら店内では男装してようかと考えるほど悩んでたよ」
和歌「えっ…」
ここで奏斗が口を開く。
奏斗「楓も普通の…むしろ繊細で考えすぎちゃう不器用な女の子なんだ。周りの目もすごく気になっちゃって…妙に敏感で勘はいいからね。楓もなんだかんだ、いっぱいいっぱいなんだよ」
奏斗「でも和歌ちゃんたち入ってすごく喜んでたんだよ。仲良くなれたら…って。だからこれからも普通に接してあげてもらえると俺も嬉しいな!」
理人「比較する気持ちもわかるけど、和歌ちゃんは和歌ちゃんのいいところがたくさんあるからね」
嬉しくて泣きそうな顔の和歌。
理人「…ちょっとお説教くさかったかな。俺も歳だね」
フルフルと首を横に振る和歌。

理人「…ちなみにさ、モヤモヤしてたって言うけどなんでだと思う?」
ニヤリと悪い笑みを浮かべて理人が和歌に聞く。
奏斗「それって…ヤキ…」※嬉しそうに
和歌「やっぱり楓さんのすごさに圧倒されてモヤモヤしてたんだなって…今話してわかりました」「でも…お2人のおかげでスッキリしました!ありがとうございます」※かぶせて
理人&奏斗「…え」(…ドンマイ侑士)※ガクッ


○由比ヶ浜・夜
その後も鎌倉観光を満喫し、日も暮れたころ由比ヶ浜に遊びに来た一行。
各々好きに過ごす中、和歌は砂浜にしゃがんで海を見ている。
香坂「何してんの」
和歌「香坂さん…」
少しドキッとする和歌の隣に香坂がしゃがみ込む。
和歌「今日楽しくて、アジサイ綺麗だったなとか…浸ってました」
香坂「地元横浜なんでしょ?近いし来たことなかったの?」
和歌「意外と来たことなかったんです」
香坂「そういえば…和歌は何で1人暮らしなの?横浜なら通えるよね?」
黙り込む和歌、少しして照れながら答える。
和歌「…朝が苦手で。理学部は1限多いって聞いて…」
香坂「ははっ…なかなか贅沢な理由だね」
笑う香坂を見て悔しそうな顔の和歌が聞く。
和歌「こ、香坂さんだって…苦手なものあるでしょう?」
香坂「そうだね…」
少し考えた後に香坂が口を開く。
香坂「俺は…まず不器用だし細かい作業ダメでしょ、ラテアートなんて論外。あと酒も飲むけどそんなに強くない」
和歌「へぇ…」
香坂「あと……多分みんなが思うほどスマートじゃないし運動も得意じゃない」
意外…といった顔をして和歌が香坂を見る。
香坂「引いた?」
和歌「え、まさか。みんなが思うほど…って…大変な思いされてきたのかなって…」
和歌モノ『きっと…見た目のイメージで色々と苦労してきたんだろうな』
和歌「だから…人の気持ちに寄り添えて、いつも周りを見ていて…私を救ってくれるんですね」
優しく微笑む和歌に少し照れる香坂。
香坂「運動のことは…初めて言った」
香坂「ごめん、和歌に偉そうなこと言ってきたけど俺も全然…上辺の付き合いばっかだし…何なら結構こじらせてた」
香坂「イメージと違う、とかそんなことばっか言われて、どんどん取り繕っていって」
香坂「聞いてよ……初めてやったゲームで出来なかったらかっこ悪いと言われ、練習してできるようになれば違う子には「ゲームうますぎてオタクっぽい」とか言われ、小説読めばお堅いと言われ、マンガ読めばまた「オタクっぽい」とか言われ…」※ブツブツ言う
和歌(なかなか闇が…)

香坂「でも…」
真剣な表情で和歌の方をじっと見つめる。
そう言いながら砂浜の砂を両手ですくう香坂。
香坂「手出して」
不思議に思いながらも、促されて両手を出す和歌。
香坂「和歌なら受け止めてくれるって思ったから…」
自分の手にあった砂を和歌の両手に入れていく。
ただ、最後の方少しこぼれてしまう。
香坂「こぼさないで受け止めてよ」
フッと笑いながら香坂が砂をすべて和歌に移した。
和歌「て…手の大きさが違うんですよ」※赤くなりながら
すると、和歌の手を掴んで自身の手と合わせた。手の中の砂は落ちていく。
香坂「ほんとだ、小さい手」
大きく骨ばった香坂の手と触れ合った手が熱を帯び、顔も更に赤くなっていく和歌。
ドキドキして何も言えない中、香坂が口を開いた。
香坂「……さっき何話してたの」
和歌「…?」
香坂「長谷寺で。店長たちと」
言いながら合わせていた手を離し、今度は和歌の手の砂を払い始める香坂。
和歌「あ…またよくないウジウジ発動してたんですけど…色々と店長たちの話聞けて…元気出ました」
触れられている手にドキドキしながら話す和歌。
香坂「なにそれ、ちょっと妬けるな」
和歌「妬ける?」
自分の手のひらに和歌の手を乗せ、ぎゅっと握る香坂。
香坂「うん、嫉妬…ちょっと悔しくてモヤモヤする」
悔しいと言いつつも和歌の目を見て微笑みながら優しく話す。
和歌(モヤモヤ…嫉妬………)
和歌(私のモヤモヤって……)※ハッと気づく
香坂と目が合いながら真っ赤に照れて、少しパニックで無意識で香坂の手をぎゅっと握り返す和歌。
和歌の様子に「?」と思いながら、ぎゅっと握り返されたことにドキッとする香坂。
和歌モノ『初めての気持ちの自覚と…梅雨明けはもうすぐそこです』


――第3話終了――