○大学構内・トラベルカフェ前・昼
カフェの前で向かい合って立ちすくむ2人。
和歌モノ『また会えたら…そう思っていた人と奇跡の再会』
〇トラベルカフェ店内・昼
和歌モノ『……のはずが』
カフェの中でグレーのYシャツに黒ネクタイ、黒ズボンに黒エプロンとカフェの制服を着て店員として忙しく働いている和歌。
店内には和歌と香坂、26歳くらいのイケメン店長と、団体客で賑わっている。
和歌「店長、これ3番テーブルでいいですか?」
店長「あ、ありがとう、お願い…!」
香坂「和歌ちゃんごめん、あのテーブル片付け…」
振り向くと、ちょうど片付け終わっている様子の和歌。
香坂「…終わってるね」※すごいの顔
てんやわんやで忙しくもテキパキ本領発揮して店内を動き、冷静に仕事をこなす和歌。
和歌モノ『なぜか一緒に忙しく働いています』
〇続・トラベルカフェ店内・夕方
香坂「終わった…!」
店長「お疲れ様。和歌ちゃん…本当にありがとう」
団体客が帰り閉店したトラベルカフェ。無事に繁忙を乗り切り達成感に浸る3人。和歌だけまかないを食べている。
和歌(ふう…どうなることかと思ったけど…)
和歌(楽しかった…!)
モグモグしながらもクールな顔が一転、嬉しそうな楽しそうな顔になった和歌を見て微笑む香坂。
――プチ回想(働くことになった経緯)・カフェ前・昼――
カフェの前で向かい合って立ちすくむ和歌と香坂。
和歌「あ…」
香坂「和歌ちゃ…」
香坂が声をかけようとした時、カフェから人が出てきた。
??「侑士?…どうしたの、そんなとこで」
香坂「店長…ああ、今行く」
香坂の知り合いらしき男性――恐らくトラベルカフェの店長であろう人が出てきて、2人で話している。
店長「急に悪いね、常連さんの団体予約が急に入って…」
香坂「いいけど、俺だけで回る?」
店長「……頑張ろう」
香坂「おいおい…」
和歌(もしかして…香坂さんってここで…)
香坂がトラベルカフェで働いているのかも、と推測している和歌の方を店長が見る。
店長「…侑士の知り合い?ごめんね、話し中だった?」
和歌(知り合い…って言っていいのかな…おこがましいかも…)
言葉に詰まる和歌を見て少し焦った感じで香坂が口を開く。
香坂「…待って、俺のこと覚えてない?」
和歌「覚えてますよ」※クールに
香坂「ならなんでそんな他人行儀なの」
呆れ笑いながら和歌の頭に優しくチョップする香坂。
そんな2人の様子を見てニヤリと微笑む店長。
店長「…ねえ、時間ある?バイト…してみない?」
和歌「…へ?」
香坂「やめてよ、この子巻き込まないで」
和歌(バイト…?)
和歌を巻き込まないようにと止める香坂の横で、キラキラした顔になる和歌。
和歌(…やってみたい)
思い切って決意する和歌。
――プチ回想終了――
〇続・トラベルカフェ店内・夕方
店長から和歌の前に封筒が差し出される。
店長「和歌ちゃん、おつかれさま」「手渡しで申し訳ないけど…今日は本当にありがとう」
和歌「…?」
店長「今日のお給料だよ、働いてくれたんだから当然」
和歌(お給料…初めて…大学生っぽい)※キラキラ
和歌(思い切ってやってみてよかった…)
嬉しそうな和歌を見て微笑む香坂と店長。
香坂「テキパキさばいてくれて俺も助かった、ありがと」
そう言いながら和歌の頭をポンとする香坂。
和歌(テキパキやることで…褒められるなんて)
過去を思い出しながら感激する和歌。
店長「うん、それでさ…」
店長「和歌ちゃん、ここで働いてみない?」
キョトンとする和歌。
香坂「ちょっ…」
呆れて止める香坂を横目に店長が話し続ける。
店長「正確に言うと1か月でいいんだけどね、今1人海外行ってて居なくて」
店長「帰ってくるまでの間でいいから手伝ってくれたらなって」
優しく語りかける店長の話を聞いてドキドキワクワク…気持ちが高まる和歌。
和歌「あの…バイトとか初心者ですけど…いいんですか?」
店長「もちろん、大助かりだよ」
和歌「あと…旅行に詳しいわけじゃなくて…あまりコミュニケーションも自信ないんですけど…」
少し悲しそうに話す和歌を店長と香坂が見守り、店長が口を開く。
店長「あまり旅行関係ないしいいんだよ。元々は旅行好きメンバーで始めたからこんな店名だし、確かに働いてるメンバーは旅行好きが集まってるけど」
店長「せっかくの大学生、色々な経験をして、色々な人と出会って、社会人にはない自由な時間を思いっきり楽しんでほしいからね。もちろんサークルとかも入ってもらっていいし」
店長「なんて、入学前の子の時間を奪っておいて言えたことじゃないけど」
店長「コミュニケーションも今日ので十分だけど、苦手ならドリンクとか裏方メインでもいいし」
優しい言葉に嬉しくなる和歌。
和歌(変わるためにも…やってみたい)
和歌「ありがとうございます」「…あの、そしたらぜひ働かせてください。よろしくお願いします」
〇後日・トラベルカフェ店内・昼
和歌モノ『そんな経緯で入学早々初バイトをすることになり2週間が経った』
――プチ回想・バイト初日――
店長「現状のメンバー全員揃ってるし自己紹介しとこうか」
店長「改めて、俺は店長の九条理人(くじょう りひと)」
香坂「法学部3年、香坂侑士(こうさか ゆうし)。無理してない?大丈夫?」
相変わらず巻き込んだのでは、と心配そうに和歌を見ている。
店員1「経営学部2年の桐原奏斗(きりはら かなと)だよ。ヘルプありがとう、よろしくね~!」
店員2「…工藤至(くどう いたる)。理学部2年」
奏斗「いっ至くーん…!」「ちょっと不愛想だけどいい子だからね!和歌ちゃん」
不愛想な至に焦りフォローを入れ一生懸命その場を盛り上げる奏斗。
和歌(見事に全員イケメン…イケメン揃いってウワサは本当だったんだ)
和歌(でも皆さん優しそう)
和歌「あっ麻生和歌、理学部の1年です。これからよろしくお願いしましゅ…」
和歌(噛んだ…)※恥ずかしすぎて真っ赤な顔
一同(噛んだ…)※生暖かい目
――プチ回想終了――
〇続・トラベルカフェ店内・昼
香坂・奏斗・至と共に忙しそうに働く和歌。
和歌モノ『みなさんの助けもあり、週4日楽しく働かせてもらっている』
和歌モノ『ここの学生はもちろん、近隣の方もいらっしゃって、毎日忙しい』
和歌モノ『適材適所、じゃないけれど、香坂さんと奏斗さんがメインでホールを、店長が調理し、至さんと私がドリンクを担当することが多い』
無言で黙々とラテアートを作る至と和歌。
至が店長の顔、和歌が猫のラテアートを完成させる、2人とも異様にリアルな細かいラテアート。
和歌「……すごいですね、至さん」
至「…和歌こそ」
奏斗「これ運ぶね~!……ってこわっ!!すごいけどリアルすぎだよ」
ラテアートを見て驚き少し引いている奏斗。
そんな和歌たちを見て優しく微笑んでいる香坂。
和歌モノ『毎日充実している――けれど、最近改めて思うことがある』
女子客「香坂さ~ん!オススメありますかぁ?」
女子客「奏斗く~ん!連絡先教えてよ~」
香坂や奏斗の接客でテンション上がる女子のお客さん。
和歌モノ『あの人たち…想像以上に人気がある…!』※真顔で
チラッと香坂の方を見ると、女子に囲まれた香坂が目に入る。
和歌(そりゃモテるか…けど)
奏斗「ごめんね、そういうの禁止されてるからさ」
香坂「おすすめはマルゲリータ…とラテアートのカフェラテ」
和歌(いつも塩対応…)
笑顔でかわす奏斗に対して、無表情に近い顔で接する香坂を見る和歌。(※まだ気持ちを自覚していないのと、不特定多数の女子相手なので妬いたりホッとしたりする感情はまだなく、冷静に傍観者として見ている)
和歌(奏斗さんは笑顔だけど、香坂さんは塩対応で至さんは不愛想…)
和歌(なんで接客やってけてるの…)(イケメンってすごい武器だな…)※呆れ
香坂から視線を手元に戻し、次の注文のドリンクを作ろうとすると、お客さんの女子グループの話が聞こえてくる。
女子1「あっ…ほらあの子…新入生なんでしょ」
女子2「ここって紹介のみの採用なんでしょ?誰かの知り合いってこと!?」
女子3「気になる~」
和歌(紹介のみ…そうなの?)
女子1「でもよかった、地味めな子で…これで女子力高かったり、ブリブリした格好だったらなんかイヤだったわ」
女子2「わかる~」
和歌のことを話す女子たち。ヒソヒソ話しているつもりだが和歌には聞こえている。
和歌モノ『気にしちゃいけない。何も悪いことしてない。わかってるけど…』※悲しそうな悔しそうな顔
和歌モノ『バイト開始以降、こういう場面は多い』
和歌モノ『日を追うごとに目立たない服を着て、反感買わないよう周囲の目を気にして…そうやって過ごしてる自分がいる』
和歌(うじうじしてよくないな……でも女子のみなさん、安心してください私期間限定ですから)
和歌(……そっか…あと少しなんだ…)
和歌(…できるなら続けさせてもらいたいけど…この視線の中で耐えられるのかな…)
和歌(…ってネガティブダメダメ!)(今はバイトに集中しよう)
切り替えてポジティブに仕事に向き合う和歌。
百面相のように1人で表情をくるくるさせていた和歌を、香坂がチラッと目で追っていた。
〇家への帰り道・夜
バイトが終わり、空も暗くなったころ、和歌と香坂2人で夜道を歩いている。和歌はTシャツGパンというラフな格好。
和歌モノ『1人暮らし同士家も近いこともあり、バイトが一緒の日はこうして一緒に帰りつつ送ってもらっている』
和歌(とはいえ、そんな遠くないし心配ないんだけど…)
香坂「……」
ジーっと和歌を見る香坂の視線に気がつく。
和歌「な…なんでしょう」※クールに
香坂「…今から時間ある?」
香坂「散歩しない?」
和歌「……はい?」
〇カフェから少し歩いた都会の街並み・夜
2人で夕暮れの街を歩く和歌と香坂。
和歌(なぜ散歩…)
内心ドキドキしながら平静を装い歩く和歌の前に東京タワーが現れる。
和歌「わ…」
突然現れた東京タワーをキラキラした目で見つめ、嬉しそうにする和歌を見て香坂が微笑む。
香坂「すごいよね、歩いてすぐの所にあるなんて。俺も最初感動した」
和歌「…はい」
香坂の方を見ずに東京タワーに釘付けの和歌を見て微笑む香坂。
香坂「…上行ってみる?せっかくだし」
和歌「え…でも香坂さん遅くなっちゃいますし…」
なんて口では言いつつ、明らかに昇ってみたそうにソワソワする和歌に微笑む香坂。
ペシッ
香坂が悩む和歌のおでこを指でツンとする。
香坂「遠慮しないの」
チケット売り場の方へ進む香坂を見て、嬉しそうに照れる和歌。
○東京タワー展望台・夜
和歌「わぁ…見てください、夜景すごいですよ」
香坂「テンション高いな」
展望台から夜景を見る2人。興奮する和歌を香坂が優しく見守っている。
和歌「連れてきてくださり、ありがとうございます」
満面の笑みの和歌に嬉しそうに微笑む香坂。
香坂「……多分…俺にはわからない色々なことがあると思うし、気にするななんて無責任なこと言えないけど…」
和歌の方を見て真剣なまなざしで話し始める。
香坂「そうやって笑っている時間が少しでも多くなればいいなって思うし」
香坂「カフェのメンバーには遠慮せずにいてほしい」
香坂「…難しければ俺にだけでも…遠慮しないで、自然体でね」
泣きそうな顔で香坂を見る和歌。
香坂「……和歌、大学生活楽しい?」
突然の質問にキョトンとする和歌。少し考えた後、口を開く。
和歌「楽しいです…」「でも…うじうじ色々考えちゃったり、変われない自分が悔しかったり…」
寂しそうなうつろ気な、そんな顔をして和歌が話すのを香坂は優しく見ている。
香坂「…和歌は何したくて入学したの?」
和歌「勉強…って言いたいところですけど…」「1番はキャンパスライフを満喫したくて」
和歌「中高でできなかった、友達と学食でランチとか、一緒に勉強とか、学校終わりにカフェでおしゃべりとか、それこそ旅行とか…そんな友達が欲しいです」
和歌「だから今日、ここに来れているのも…願いが1つ叶ってます」「ありがとうございます」
香坂に向かって微笑む和歌、真剣に聞いてくれる香坂。
香坂「俺は友達って縁と運だと思ってる」
和歌「縁と運?」
香坂「そう、例えば俺らシドニーでたまたま会えたのもすごい確率で運だけど」「もしあの時どちらかが友達と一緒だったらすぐにそのままバイバイしてたと思わない?」
香坂「そうしたら、大学で再会してもお互いあの時の人って気がつかなかったかもしれない」
香坂「そもそも俺も助けなかったかもしれないし、和歌もあの外国人達と関わらなかったかもしれない。俺らは1人同士だったから出会えたのかもしれない」
香坂「もっと言うと…和歌が人馴れしていて、俺に思いっきり話しかけてくるタイプだったら…助けた後、俺は一緒に行動しなかった…と思う」※キラキラ女子への塩対応の時のような怪訝な表情
夜景を背景に真剣に話す香坂と、その話を聞く和歌。
香坂「そうやって色々な縁と運が合わさって出会いってあるんだと思う」
和歌(縁と運…なるほど…)
香坂「もちろん性格とかもあるけど…和歌はもともと人と話すの苦手なんかじゃないと思うよ。俺や他のヤツらとも話せてんじゃん」
和歌モノ『そうだ…些細なことが重なって、少しずつ怖くなって、それでどんどん自分で閉じていって…』
香坂「カフェでもできることを頑張って、立派な戦力で…」「俺は不器用だからラテアートとかできないし」
香坂「だからきっと大丈夫、まだそういう縁がなかっただけ。少しずつ前に進んでいけるよ」
和歌モノ『本当に…香坂さんはいつも嬉しい言葉をくれる…』
泣きそうな嬉しそうな表情の和歌。
香坂「…感動しちゃった?」
語ったことが少し恥ずかしいのか、茶化すように言う香坂。
和歌「……香坂さんの不器用ラテアートを思い出した泣き笑いです」
内心嬉しいながらも照れ隠しでツンと伝える。
香坂「なんでだよ」※ツッコミ
和歌「ありがとうございます」「この前も今も…香坂さんの存在や言葉のおかげで自信が持てます」
和歌モノ『きっと大丈夫、こんな心強い味方がいる』
香坂「ん」※照れている
和歌「香坂さん…」
香坂「ん?」
和歌「あの…わ、私…香坂さんのこと…」
告白するような雰囲気の和歌に少し身構え意識する香坂。
香坂「……」
和歌「と…友達って思ってもいいですか?」
香坂「………」
想定外の言葉にポカンとする香坂。
和歌「さっきの言葉で…私たちに縁と運はあるんじゃないかなって」
和歌「…どうしました?やっぱり先輩なのに友達なんて失礼でした…?」
ジト目で呆れて和歌を見る香坂。
香坂「……ソウダネ、友達だと思うヨ」
香坂の反応に反して、嬉しそうに微笑む和歌。
和歌「私店長にバイト続けさせてくださいってお願いしてみようと思います」
和歌モノ『断られるかもしれない、女子の視線が気になるかもしれない…でも私の大学生活、やりたいことを楽しみたい』
香坂「ん、大歓迎」
先程までの若干のモヤモヤが吹き飛び、和歌の決意に純粋に嬉しそうにする香坂。
○東京タワー下りエレベーター・夜
帰るためにエレベーターに乗り込む2人。後ろから団体客が入ってきてぎゅうぎゅうになる。
香坂「大丈夫?」
和歌「は、はい…」
向かい合って、香坂が和歌を守るようにエレベーターの奥で壁ドンのような形になって密着している。
和歌(ち、近い…)
香坂の胸元に顔がつくほどの距離で、赤くなりドキドキする和歌。
そんな和歌の耳にふっと息を吹く香坂。
和歌「ひゃっ…」
「何するんですか」と言わんばかりに口をパクパクさせながら、ジロッと見上げて香坂を見る和歌。
お構いなしに香坂が和歌の耳元で語りかける。
香坂「ごめん、友達とこういうことするからさ」
香坂「友達だもんね?俺ら」
耳元から顔を上げ、ニヤリと悪い笑みを浮かべた。
和歌「………っ」※照れて悔しそうな顔
和歌モノ『それでも…嫌だと思わないのが不思議』
和歌モノ『早く地上に着いてほしいような、着いてほしくないような…ドキドキと色々な気持ちが混ざっていた』
○東京タワー前・屋外・夜
帰るために東京タワー前の道路を歩いている二人。※「もう!」と照れて怒っている和歌の隣で笑う香坂
1人のツインテールの可愛い女の子とすれ違う。※和歌だけ気づく
和歌(すごい可愛い子…)
そのまますれ違いそれぞれ反対に歩いて遠ざかっていく。
ツインテ美少女「……へえ。侑士さんと女の子…」「珍しい…」
意味深な笑みを浮かべていた。
――第2話終了――

