〇プロローグ
和歌モノ『一期(いちご)大学――日本有数の名門大学』
和歌モノ『様々な学部、充実の設備…日々学生たちで賑わうキャンパスの一角にこの大学ならではの人気スポットがある』
和歌モノ『トラベルカフェ アクロポリス』『その名の通り旅行好きの店員たちが集い、時には郷土料理もふるまわれる』
和歌モノ『最大の特徴は――店員がイケメン揃い……らしい』※後姿の接客している男子店員3人
〇シドニー・オペラハウス前・昼
麻生和歌(あそう わか)。肩くらいの長さで黒髪、コットン素材のロングのシャツワンピースを着ている。クールな表情の女の子。シドニーのオペラハウス前でオペラハウスを眺めている。
和歌(近くで見るとまた違った印象…)
和歌モノ『麻生和歌』『この春から晴れて大学生』
和歌モノ『その前に卒業旅行なるものでオーストラリアのシドニーに来ている……1人で』
和歌モノ『1人の理由は簡単…一緒に旅行するような友達がいないから』
※回想①中学生・自宅※
和歌モノ『共働きの両親に代わり妹と弟のお世話をしていたからか、しっかりした性格でテキパキと動くのが普通だった』
妹「お姉ちゃーん、体操着汚しちゃった…あと宿題わかんない」※泣いてる
弟「和歌ちゃん、明日図工でプリンカップと紐いるんだけど」
中学生和歌「今から洗うから洗濯機入れて、その間に宿題しよう」
中学生和歌「プリン!?急いで買いに行ってくるよ、紐はそこの図工用って引出しに色々とってあるから」
※回想②中学生・京都修学旅行・班行動※
和歌モノ『学年が上がるにつれ、そんな性格だとうまくいかなくなっていった』
中学生女子1「抹茶パフェだって!ねえ、休憩で入らない?」
中学生女子2「いいね、食べたい!」
中学生和歌「でも、もうバス停行かないと清水寺行けないよ」
中学生女子1「なら清水寺やめてパフェにしようよ!」
中学生和歌「でも…計画表が…」
中学生女子2「いいじゃん、その通りにしなくたって」
中学生女子3「さっきから計画のために急いでばっかで、おみやげ見るのも時間に追われて…楽しくないよ」
中学生和歌「…ごめん」
ショックを受ける和歌。
和歌モノ『あまり自分を出さないように人に合わせてひっそりしよう…としたけれど』
※回想③高校生・教室※
和歌モノ『当然それだけではうまくいかず』
休み時間に1人で席で東京のガイドブックを読む和歌。
高校生和歌(雷門に浅草寺…)(コース決めの時、思い切って言ってみようかな…これくらいなら)
班ごとにコース決めの時間。
高校生女子1「麻生さん、東京見学の行き先、原宿にしようと思うけどいいかな?」
高校生和歌「…あー…う、うん」 ※浅草のページそっと閉じる
高校生女子1「やった、じゃあこれで先生に提出してくるね!」
和歌の席から離れて去っていく女子1に女子2が話しかけるのが聞こえてくる。
高校生女子2「ちょっとあんた、強引すぎ」※笑いながら
高校生女子1「だって~普段話さないのに、こういう時だけ主張されても困るじゃん」
高校生女子2「まぁわかるけど」
泣きそうな悲しそうな顔をしている和歌。
和歌モノ『少しの積み重ねでどんどん人との接し方もわからなく、笑うことも少なくなっていった』
※回想終了※
〇続・シドニー・オペラハウス前・昼
和歌(1人でも…卒業旅行はしたい)(…友達と来れればもっと楽しいんだろうけど)
なんて考えながら歩いていると、前方から1人の男の人が歩いてくる。
和歌と彼が一瞬目が合い、そのまますれ違う。
和歌(日本人…?すごい雰囲気ある人…)
すれ違った人は、毛先が少しうねった耳にかかるくらいの黒髪、シンプルに白ロンTにデニムでスラっとしてカッコいい。
和歌モノ『友達作りも難しい私は、当然恋愛とも無縁だった』
和歌モノ『大学では飲み会に参加したり、友達と恋バナしたり、こうやって旅行したり…そしてデートしたり…』
和歌(私にだって…そういう憧れはある)※少し照れた顔
和歌モノ『せっかくの大学生…私も変わりたい』※ポジティブで前向きな顔
和歌(さて、写真のようなよく見る角度のオペラハウスを見てみたいな…)
和歌(少し離れたとこからがいいのかな)
そう思い、その場を移動しようと方向転換したとき、誰かにぶつかってしまった。
和歌「あ…ソ、ソーリー…」
ぶつかった外国人「~~~~~~~~!」
ぶつかった相手と思われる外国人男性2人組が目の前に立っている。
和歌(一切聞き取れない…)
ぶつかった外国人「~~~~~~~~!」
相手は笑顔なので怒っているわけではなさそうだが、何を言っているかはわからず困惑する和歌。
和歌(何か言ってるけど…どうしよ)
相手が和歌の肩を抱きよせようと手を伸ばしてきた時、
ガシッ――
何者かがその手を掴んで阻止した。
和歌(え…)
なにが起こっているかわかっていない和歌が見上げると、そこにいたのは先ほどすれ違った日本人だった。
??「~~~~~~~~~~」
ぶつかった外国人「OK,OK」
流暢な英語で笑顔で会話する3人を、理解が追い付いていない和歌はじっと見ている。
和歌(すごい…ペラペラ)
やがて手を振り別れた3人。日本人の男性がこちらを向く。
??「大丈夫?」
和歌「あ…はい」
突然話しかけられ少し驚きつつも、平静を装って答える和歌。
和歌「あの、ありがとうございました」
少し震えている和歌に気づく。
??「ん。怖かったね」
よしよしと頭をポンポンする彼。ホッとする和歌。
和歌(もう少し観光したかったけど…もうホテル戻った方がいいかな)
そう思いしょんぼりしている和歌に気づく彼。
??「もし…行きたいところあったなら…行く?」
??「ナンパ避けにはなれると思うよ」
和歌「ナンパ?」
??「えぇ…気づいてないの?さっきのあれ、ナンパされてたんだよ」
和歌「え…」※素で驚く
??「日本よりグイグイ来る人多いからね、可愛いんだし油断しちゃダメだよ」
お世辞と分かっていても可愛いというワードに反応し赤くなり照れる和歌。
〇シドニー・オペラハウス全景を見られるスポット・夕方
結局2人でオペラハウス全景を見られる絶景スポットに。アイスを食べながら横並びで見ている。
和歌「すごい…」
??「ここ、ミセス・マッコリーズチェアって言ってね、オペラハウスとその奥のハーバーブリッジが一緒に見られる絶景ポイントなんだよ」
和歌(空と海の青とオペラハウスの白が対照的で…きれい…)
嬉しそうに見つめる和歌を見て、満足そうに微笑む彼。
??「卒業旅行ってことだけど、和歌ちゃんはなんでオーストラリアにしたの?」
和歌モノ『あの後、オペラハウスの全景が見たいとリクエストしたらここへ連れてきてくれた』
和歌モノ『道中に自己紹介し、彼は香坂侑士(こうさか ゆうし)さん、大学3年生らしい』
和歌「この冬寒かったんで…暖かい南半球行きたいなって思って…」
和歌「エアーズロックに、海も見れて、多人種で…日本を忘れて気持ちをリセットできそうだなって思って」
話ながら、語ってしまった…と気づき恥ずかしくなる和歌。
和歌「…って卒業旅行に1人で来てるヤツが何言ってんだって感じですね」
恥ずかしそうに照れ隠しで真顔を作る和歌を真剣に見つめる香坂。
香坂「そんなことないよ。現地のこと調べて、自分の希望も考えて、計画立てて…」
香坂「実際こんな遠いところまで来てるんだから」
真剣に言葉を伝えてくれる香坂に嬉しくなる和歌。
香坂「すごいことだ…ぶっ!」
香坂が話している途中、後ろから人がぶつかってきて、香坂は思いっきりアイスに顔を突っ込む。
2人「…………」
顔がアイスまみれになった香坂を見て、和歌はつい吹き出してしまう。
和歌「ぷっ…」
失礼にならないよう、口を手で覆い、控えめに笑いをこらえる和歌。
香坂「……笑うなら思いっきり笑ってほしいんだけど」
和歌「…ぶはっ!あはは!すみません」
こらえきれず思いっきり笑う和歌。
香坂「…もー…人がカッコいいこと言ってる時に…」
初めて笑う和歌に少しドキッとする香坂。
香坂「その笑顔はズルい…」
和歌には聞こえない小さな声で呟いた。
不満げに照れている香坂だが、香坂の前で初めて思いっきり笑っている和歌を見て嬉しそうでもある。
和歌「ふふ…ありがとうございます」
ちょうど夕日の時間で、満面の笑みを見せお礼を言う和歌の顔が夕日に照らされている。
和歌はカバンからウェットティッシュを出し、クールな顔でテキパキと香坂の顔を拭き始める。
香坂「……!」
和歌の顔が近づき、急なその行動に驚き照れる香坂。
近距離で目が合い、和歌も自分の状況に気づき赤くなる。
和歌「………すみません、つい…」(しまった、妹たちにやってるからつい…)
香坂「いや…ありがと…」「あとは自分でやるね」
お互い横並びで前を向きなおし、照れて何とも言えない空気になる。
そんな時、人が増えてきて2人の両サイドから押されて2人の肩がくっつき近づく。香坂が右、和歌が左。
和歌(あ…)
触れた肩を意識して照れる和歌。
和歌の隣の大きな外国人が和歌に触れ合うくらいに近づいてきたので、香坂が守るように後ろから和歌の両サイドの柵に手をつく。香坂が和歌に覆いかぶさるようになっている形。
香坂「…大丈夫?」
和歌「はい…」
香坂「日没だからか、人…増えてきたね」
和歌「はい…」
和歌(近い…ドキドキする)
ドキドキして会話どころではない和歌。
香坂「この体勢で悪いけど、沈むまで見る…でいい?」
和歌「…はい」
和歌モノ『夕日がいつ沈んだのか覚えていないくらい、ドキドキしっぱなしだった』
○シドニー・ホテル前・夜
その後、和歌のホテル前まで送ってくれた香坂。
和歌「すみません、送っていただいて」(あっという間…)
香坂「いえいえ」
和歌「今日…予定狂わせちゃいましたよね、すみません」
香坂「んーん、元々ノープランでぶらぶらのんびりしようと思ってたから」
優しく微笑んでくれる香坂。
和歌(ノープラン…)
少し考える和歌。
和歌「…やっぱり、旅行ってそうやって自由に楽しむものですよね」
突然の和歌の発言に香坂は、ん?と不思議そうにしている。
和歌「私、旅行で綿密にスケジュール立てちゃうんです、見たいもの全部見たくて。時には分刻みで」
和歌「それだと窮屈でゆっくり楽しめないですよね」
過去の友達からの言葉「楽しくないよ」を思い出す。
和歌の雰囲気を察し、励ます意味で否定の言葉を言おうとする香坂。
香坂「そんなこ…」
和歌「だから今後は…のんびり楽しめる余裕のある人間になろうと思います」(ネガティブ・ダメ・絶対)
予想外の言動にポカンとする香坂。
和歌「それも今日、香坂さんとゆっくり過ごしたおかげです」
和歌「ゆっくり夕日だけを見るなんて、今までの私では考えられなくて…」
和歌「こんな素敵な経験をさせていただき、ありがとうございました」
落ち込んでいるかと思いきや、珍しく饒舌で前向きに宣言する和歌を見て香坂が吹き出す。
香坂「ぶはっ…なにそれ…面白いな和歌ちゃん」
ケラケラと笑う香坂。
香坂「いいんだよ、楽しみ方なんて人それぞれだから。分刻みいいじゃん、俺は逆に行きたいところ行きそびれたりするからうらやましいよ」
香坂「俺も今日楽しかったよ、ありがとう」
微笑みながら和歌の頭をポンポンしている。
和歌(面白いなんて…うらやましいなんて…初めて言われた)
和歌モノ『香坂さんはすごい…ずっと私を受け入れてくれてる』
和歌モノ『なにより…今まで悩んでたのがウソみたいに…会ったばかりの人と普通に話せてる』
和歌モノ『もう少し…香坂さんを知りたい…』『けど…』
和歌(名前しか知らないのに…会ったばかりで連絡先聞くのは…)(そもそも聞いたところでどうするのか…)
勇気が出せずぐるぐると考える和歌。
和歌「……今日は本当…ありがとうございました」
結局、お礼を言うことしかできず、香坂と別れた和歌。
和歌モノ『今までちゃんと人と接してきていたら…勇気出せたのかな』
〇大学構内(屋外)・昼
日本に帰国し、建物と桜並木が並ぶ雨上がりの大学敷地内を歩いている。春休み中のため人はほぼいない。
和歌(わ…綺麗)(雨あがってよかった)
和歌モノ『夢のような時間を過ごしたシドニーから帰国した私は今日、大学近くで1人暮らしをする家に引っ越してきた。明日の入学式前にキャンパスを散策している』
花びらが舞う桜並木に見惚れる和歌。
和歌モノ『香坂さんが自信をくれた、大丈夫…変われる』
和歌(ポジティブに!楽しむぞ…キャンパスライフ)
歩いていると構内に1軒のカフェを見つける。
和歌(「トラベルカフェ アクロポリス」…)(これがウワサの…)
和歌(旅行…楽しかったな…)
春休み中ということもあってかオープンしていないようだが、店頭に置き看板がある。
看板には「旅行好きもそうでない人も!コミュニケーションの場としてご利用ください」の文字。
和歌(う…変わるとは決意したものの…今はまだハードル高い…かも)
和歌モノ『いつか気後れせず来れるように…成長したい』
香坂を思い出しながら決意する和歌。
和歌モノ『そしてもし奇跡が起きて…出会えた時には…今度は勇気を出せるように…』
移動しようと横を向くと、前方から1人の男の人が歩いてくる。
和歌と彼が一瞬目が合う。※シドニーの初対面と同じ構図で
その男性が香坂なことに気づく和歌。香坂も和歌に気づく。カフェの前で対面し驚く2人。
和歌モノ『キャンパスライフ、何かが始まる予感…』
――第1話終了――

