氷の王子は私に優しくしてくれます


 「いらっしゃいませ」

 森の中にあるカフェのような木が基調になっている店内は、外の光がほどよく入り、暖かい印象を持たせた。

 「ここのなんでも美味しいから好きなの頼みな」

 席につき、メニューを受け取る。

 オムライス、ナポリタン、ハンバーグプレートといった洋食が写真とともに載っている。

 カフェだからケーキなどのスイーツも豊富で、どれもすごく美味しそう。

 「先輩は何が好きなんですか?」

 お冷を飲みながらメニューを眺める私を見る先輩に聞く。

 「なんでも。でもおすすめは日替わりランチだな。ケーキとスープがついてくる」

 これとメニューの一番最初を指さした。

 パスタと雑穀ご飯、サラダもついている。

 パスタが日替わりになっているんだ。

 「私、それにします」

 「ん、了解」

 先輩が店員さんを呼んで注文を済ませる。

 聞きに来た若い女の店員さんの頬がほのかに赤く染まっていた。

 そりゃそうなるよね。

 穏やかなBGMが流れ、コーヒーのいい香りがキッチンのほうから漂ってくる。
 
 お昼時だからか少し混んでいるけど、満席ではない。

 知る人ぞ知る隠れ家的な店だと先輩が教えてくれた。

 少しして料理が運ばれてくる。

 私はフォークとスプーンを取って手を合わせた。

 「…おいしい…先輩、おいしいです」

 今日のパスタはあっさり和風キノコパスタだった。

 アルデンテの麺がしっかりソースと絡んですごく美味しい。

 私は自然と笑顔になった。

 「ふっ…」

 私の顔を見て先輩が笑う。

 体育祭以来の笑顔に不思議と胸が高鳴った。

 顔がいいからとか関係ない、素の笑顔にときめいた。

 先輩の手が近づいてくる。
 
 「ついてるぞ」

 「へっ?」

 綺麗な手が私の口元を拭った。
 
 「…かわいいな…」

 ドクッ…

 思わず俯いた。

 チラッと先輩を目だけで確認すると、先輩自身も驚いているのかぎこちなく顔を背けている。

 聞き間違いでなければ、先輩は今、私にかわいいって言った。

 紛らわすようにサラダを口に入れ、ゆっくり咀嚼する。

 先輩は、どういうつもりで言ったのだろうか。

 ただ子供っぽいとか、そういうふうに言ったのだろうか。

 料理の味なんて、もう分からなかった。

 先輩との間に会話もない。

 ただ、先輩のその言葉が、そういう意味で言ったわけじゃないことを祈ってしまっていた。