氷の王子は私に優しくしてくれます


 赤、青、黄色、緑…。

 様々な色の絵の具が繋げた机の上に散らばっていた。

 「瑞葉ちゃん、そこ終わったらこっちもお願い」

 汚れても大丈夫なように体操着に着替えた奈々ちゃんが私に絵の具を渡した。

 今は放課後、ついに明日に迫った体育祭の軍団旗の最終手直しを奈々ちゃんと二人でやっていた。

 「まかせて」
 
 私は絵の具を受け取り、パレットに絞った。

 「あ、ちょっと動かすよ」

 奈々ちゃんの声に手を止めて腕を上げる。

 OKの合図で続きを始めた。

 本当なら床でやったほうがいいんだけど、私のために机の上でやってくれている。
 
 そうすると届かないところは回して書くかしかない。

 その分時間はかかってしまうのに楽しいねと笑う奈々ちゃんに救われながらなんとか完成しそうだ。

 「瑞葉、奈々ちゃん、お疲れ様」

 ドアからひょこっと佳奈が顔を出した。

 「佳奈、今日も来てくれたの?」

 「もちろん!頑張ってる二人に差し入れだよー」

 そう言ってミルクティーのペットボトルを私たちに手渡した。

 「私まで貰ってもいいの?」

 「当たり前でしょ?奈々ちゃんだって頑張ってるんだから」

 佳奈と奈々ちゃんは会ってすぐ仲良くなった。

 奈々ちゃんはちょっと遠慮しちゃうところがあるけど、佳奈はお構い無し。

 それがまたいい関係になっている。

 「いよいよ明日だねー。ワクワクしちゃう」

 佳奈が空いている席に腰を下ろした。

 私と奈々ちゃんもペットボトルの蓋を開けて少し休憩。

 頑張りすぎもよくない。

 「佳奈は足速いからね。高校でもリレー出るの?」
 
 「うん!五十メートルのタイムが良かったから皆に推薦されちゃって」

 佳奈は中学の時から陸上をやっていて、何度も表彰台に上がったことがあるほどの実力者だ。

 そりゃ推薦されるよね。

 「すごい。佳奈ちゃんそんなに速いんだ」

 「へへっ、二人は借り物競争でるんだっけ?どう?練習は」

 私と奈々ちゃんは顔を見合わせた。

 「いい感じだよね?」

 「うん、うまくいってると思う」

 その様子にぷっと佳奈が笑う。

 「二人とも、なんでそんなに不安そうなの?」

 「だって、緊張しちゃうから」

 奈々ちゃんが言った。

 「大丈夫だよ。私、違うチームだけど応援してる!」

 佳奈がガッツポーズを作る。

 「佳奈ー、それってありなの?」

 私が言うと、わかんないけどいいじゃんと佳奈が答え、私達は笑った。

 「よし、後もう少し頑張ろう、瑞葉ちゃん」

 奈々ちゃんが筆を持った。

 私もそれにならって持つと、うんと頷いた。