氷の王子は私に優しくしてくれます


 車椅子での高校生活はそう上手くは行かない。

 高校入学から早くも一ヶ月になろうとしていたとき、高校生活最初の行事が近づいていた。

 「香坂を除いて皆必ず人種目は出るように。教卓に用紙置いておくから、決まった人から名前書いていって」

 皆の視線が私に向く。

 なんだかいたたまれなくなって肩をすくめ、机に視線を落とした。

 走ったりジャンプしたりという運動ができない私は、体育の授業はもちろん、体育祭も見学だ。

 この学校の場合、応援合戦もダンスに変わるから、本当に出られる幕がないのだ。

 「じゃあ男子は窓側、女子は廊下側に集まって話し合って」

 始めの合図とともに教室内が騒がしくなる。

 先生に言われた通りの場所に動き、誰がどこにいくか、どこに行きたいか相談する。

 そんな中、私は輪に入らずその様子をただ眺めていた。

 せっかくの行事でも私は入っていけない。

 仕方ないよね。

 そう思っていると、一人の女の子が私のところに来た。

 「ねえ、よかったら私と一緒に借り物競争でない?」

 「…えっ?」

 長い髪をポニーテールにしてピンクのシュシュでまとめた柔らかい印象の子。

 確か名前は森さん…だったはず。

 「私が香坂さんの車椅子押すからさ。一人だけでないなんて寂しいじゃん」

 「でも、迷惑じゃ…」

 「そんなわけないよ。私が先生と掛け合うから。あの、嫌じゃなかったら…」

 「嫌じゃない!」

 つい被せるように言った。

 「むしろ、やりたい。一緒に」

 私が答えると、森さんは嬉しそうに笑った。

 「やった。一緒に頑張ろう」

 「うん!」

 二人でパチっと手を合わせる。

 「私、瑞葉ちゃんって呼んでもいい?私のことも奈々って呼んで欲しいし」

 「もちろん。奈々ちゃん!」

 奈々ちゃんは私が先生のところまでいけない代わりにすぐに了承を取ってきてくれた。

 その後の係決めでも二人で同じ軍団旗を作成する係りに入り、終了のチャイムが鳴る頃にはすっかり仲良くなっていた。

 「瑞葉ちゃんに声かけて良かった」

 「え?」

 授業後の休憩時間、私の机で奈々ちゃんと話す。

 「本当はね、ずっと話してみたかったんだ。でも瑞葉ちゃんお昼休みいなくなっちゃうし、私自身も勇気でなくて話しかけられなかったんだよね」

 確かにいつも授業が終わってすぐに佳奈のところに行くから昼休みはほとんど教室にいない。

 「そうだったんだ。ありがとう、私に声かけてくれて。奈々ちゃんのおかげでいい思い出作れそう」

 奈々ちゃんがいなかったら見学で終わっていたはず。

 だから本当に嬉しかった。

 これは佳奈にも報告しないと。

 いつか佳奈と三人で遊んでみたいな。

 奈々ちゃんの笑顔を見ながらそう思った。