氷の王子は私に優しくしてくれます


 「…香坂!」

 先輩が私の身体を抱きしめた。

 「せ、先輩…?」

 「好きだ…」

 「…え…」

 突然の出来事に私は固まった。

 先輩が、私を…好き?

 私から身体を離した先輩は、今度は私の事を端から確認し始めた。

 「どこか、怪我はしてないか?」

 「…へっ?」

 「血が出たり、どっかぶっけたり…」
 
 「お、落ち着いてください。なんで私が怪我を?」

 怪我どころかどこにもぶつけた覚えはない。

 それなのに先輩は必死に私に話しかける。

 「本当か?」

 「はい、何ともないです」

 私がそう言うと、先輩はしゃがみ込んだ。

 「良かった…。森から連絡が来て、しかもここで事件とか、心臓に悪い…」

 「奈々ちゃんが…。すみません。スマホ充電切れちゃってて連絡取れなくなっちゃって…」 
 
 奈々ちゃん達心配してただろうな。

 早く連絡すれば良かったと後悔する。

 先輩が奈々ちゃんに連絡をしてくれている間、私はソワソワしながら待っていた。

 心配してくれた先輩が最初に言った一言が頭を占めていた。

 「森達も安心してた。怪我がなくてよかった」

 「…はい、ありがとうございます…」

 「どうした?」

 俯いたままの私に先輩が聞く。

 「あの、先輩…最初のって…」

 「最初……っ…!」

 先輩はそれどころじゃなかったのか今思い出したらしく、手の甲で口元を覆った。

 「悪い、急に、あれは嘘…ではないけど…あぁ…くそ」

 歯切れの悪い言葉を繰り返した後、先輩は私を真っ直ぐ見た。

 先輩がしゃがみ、私と目線を合わせる。

 「本当は、もっとちゃんと言おうと思ってた。香坂と連絡が取れなくなって、本当に焦った」

 先輩が私の手を握る。

 「気持ちを伝えないまま会えなるかもしれないって、初めて感じて怖くて、気づいたら告白してた」

 「先輩…」

 「そのくらい俺は…香坂に惚れてる」

 先輩の、私を見る目が甘い。

 「香坂が好きだ」

 先輩の指先が、かすかに震えている。

 勇気を出してくれていると分かって愛おしいと思った。

 「俺と、付き合ってください」

 ほんのりと頬を染める先輩。

 きっと私の顔は先輩よりも赤くなっているだろう。

 言葉にするのはどうしても恥ずかしくて、それでも思いに応えたくて、私は先輩をそっと抱きしめた。
 
 「…はい…」

 震える声で、やっとそれだけを答えた。

 先輩が優しく抱きしめ返す。

 先輩が私のどこに惚れてくれたのかは分からない。

 でも、先輩の視線が、声色が、嘘には思えなかった。

 なんでもいい。これからしればいい。

 おでこを合わせて笑い合う。

 先輩の笑顔を、これからもずっとそばで見ていたい。

 心からそう願った。