氷の王子は私に優しくしてくれます



 うだるような暑さ、太陽に向かって大輪を咲かせる向日葵。

 夏休みに入って数日、ずっと家にいて一歩も外に出ない私をお母さんが追い出した。

 特に行くところもないので仕方なくいつもの公園に向かう。

 先輩がいるかもしれないというちょっとした期待を持っているのは内緒だ。

 公園について中に入る。

 夏休みだからかいつもよりランニングしている人が目についた。

 邪魔にならないように出来るだけ端を選んで広場を目指す。

 木が影を落とす細い道を通ってしばらく行くと、ベンチが見え、その上で寝そべる人影を見つけた。

 ゆっくりとベンチに近づくと、南雲先輩が顔に本を置いて眠っていた。

 呼吸に合わせてゆっくり腹部が上下する。

 顔は見えないけど、気持ちよさそうだ。

 とはいえ、ここは日向。暑くないのかな?

 熱中症になると悪いし、起こしたほうがいいかも。

 「先輩、南雲先輩」

 そっと声を掛ける。

 でも、先輩はよほど深く眠っているのか起きなかった。

 そこで、私は鞄から来るときに買ったペットボトルを取り出した。

 お母さんに言われて多めに買っていて良かった。

 まだひんやり冷たいペットボトルを持ち、先輩に手が届くところまで行くと、首元にピトッと当てた。

 「…!?」

 ビクッと先輩の体が跳ね、顔から本をどかした先輩と目が合う。

 「お、おはようございます。南雲先輩」

 「香坂…」

 先輩がゆっくり体を起こす。後ろのあたりがぴょいっと少し跳ねていてなんか可愛い。

 「先輩、これあげますから飲んで下さい。熱中症になりますよ?」

 先輩はまだ状況を理解できていないのか、何も言わずに私から水を受け取ると一気に半分ほど飲み干した。

 喉乾いてたんだな。

 「ん…ありがと」

 まだ眠そうにまばたきしながら先輩が言う。

 「んで、なんで香坂がここに?」

 先輩に会えるかもしれないから…とは言えないので「ちょっと散歩に」と答えた。

 「ふーん」

 んー、と先輩が伸びをする。ベンチで寝ていたから体が痛いのかもしれない。

 「先輩こそ、なんてここに?」

 寝るためにわざわざ暑い外のこんな場所にくるわけがない。

 「暇だったから」

 あ、なるほど。

 「あと、ここに来れば誰かさんがくるかもしれないと思って」

 だ、誰かさん。

 「まぁ、驚かされるとは思ってなかったけど」

 「…すみません」

 一応謝ったけど、こんなところで寝ていたら熱中症になりかねないから少し強引なのは許していただきたい。

 「…ふっ、別にいいよ」

 先輩の笑顔に少し見惚れる。

 奈々ちゃんが全然笑わなかったというのが本当か疑いたがるほど先輩は優しく、よく笑う。

 「…香坂、これから予定ある?」
 
 唐突に先輩が聞いた。

 「いえ、特には」

 「じゃあさ、ちょっと付き合って」