氷の王子は私に優しくしてくれます


 食事を終えて外に出ると、雨が降っていた。

 天気予報では一日曇りの予報だったから傘なんて持ってきていない。

 「これ、明日までやまないな」

 スマホで天気予報を見たらしい先輩が言った。

 「そうですか…」

 また店内に戻ってもいいけど、やまないのなら結局は濡れてしまうだろう。

 今の時点でそこまで酷くないし、これから強くなる可能性を考えると今言ったほうがいい気もする。

 しばらく二人で呆然と外を眺めていた。

 今日はお母さんが休みだったから迎えに来てもらおうか。

 そう思っていたとき、先輩が着ていたカーディガンを自分の頭にかぶせた。

 「ちょっと待ってて」

 そのまま雨の中を飛び出していく。

 行き先は分からないけど、来た道を走って行った。

 この雨だし待つしかない私は邪魔にならないように端によってぼーっと空を眺めた。

 数分後、先輩は雨具を二着買って戻ってきた。

 来る途中にコンビニがあったからそこから買ったのかもしれない。

 「香坂、これ着て。大きめの選んだけどたぶん車椅子覆えないと思う」

 「いえ、ありがとうございます」

 先輩の頭からポタポタと雫が垂れている。

 服もびしょびしょで肌に服がくっついてしまっている。

 タオルがないかと思ったけど、そんな都合良く入っていなかった。

 「先輩、早く帰りましょう。風邪引いてしまいます」

 「あぁ、でも、香坂のことは送っていく」

 雨具を着た私に出発することを伝えて雨の中を歩き出す。

 「私は大丈夫です。それより先輩、早く帰ってお風呂に入って下さい。体調崩したら大変ですから!」

 「雨の日はタイヤが滑りやすいからだめだ。送っていく」

 「でも先輩!」

 「ここ、どっちだ?」

 先輩は譲らない。こうなったら私のことを早く送ってもらったほうが先輩が早く帰ってくれるだろう。

 「…右です」
 
 私は抵抗をやめた。

 その代わり、先輩が早く帰れるように近道を選んだ。

 「先輩、ありがとうございました」

 家の玄関の屋根に入ったところで先輩にお礼を言う。

 「いや、いい。ちゃんと体拭いて暖まれ。風邪引かれたら困る」

 「それを言うなら、先輩だって早くしないと風邪引いてしまいそうです」

 私よりも長い時間雨に当たっているんだから。

 「俺はそんなに軟じゃない」

 先輩は私と視線を合わせた。

 先輩は私と話すとき、こうやって目線を合わせてくれる。

 綺麗な瞳が私を見つめる。

 「今日はありがとな」

 ポンポンと先輩が私の頭を撫でる。

 濡れた髪が動きに合わせてポタポタと垂れた。

 優しく先輩が笑う。

 あぁ…、ズルいな。

 雫さえも味方にして、優しくされて、こんなの…。

 先輩が背中を向けて雨の中を歩いていく。

 こんなの、好きにならないわけないじゃん…。

 自覚していた思いは、名前をつけた途端に輝きを増した気がした。

 私は、先輩の背中が見えなくなるまで、先輩を見送った。