──昼休みに親友と食べるお弁当は最高だ。
いつものように人気のない校庭の木の下のベンチに並んで、私は親友の梓と昼食をとる。
私は朝作ったお弁当。
梓は焼きそばパンが定番だ。
「いつもながらおいしそうだよねー、弥生のお弁当。ね、嫁にならない?」
「何言ってんの梓ったら」
こうして周りを気にせず気を楽に笑っていられるこの時間が、私にとっての至福の時間だ。
「ははっ。でもさ、それってツッキーとおそろなの?」
梓が私のお弁当を覗き込んで尋ねる。
ツッキーというのは春馬のことで、名字からとったあだ名だ。
仲の良い男子はだいたいこのあだ名で春馬を呼ぶ。
小学三年生の時に転校してきた梓もその一人だ。
昔一度だけ、『梓は春馬って呼ばないの?』と何気なく聞いたことがある。
すると彼女は笑ってこう言った。
『ツッキーを名前で呼び捨てにする女子の特権は、弥生だけでいてほしいからね』と。
そこで初めて、彼のことを名前で呼び捨てにしている女子は自分しかいないということに気づいたものだけれど、幼馴染だからという理由を盾に深くは考えてこなかった。
梓は私の父の事や今住んでいるところなど、事情を知っている唯一の友人で、それは春馬も承知済みだ。
「さすがに別々のもの作るのも疲れるしね。中身はだいたい一緒。春馬、意外と好き嫌いなく食べてくれるからすごく助かるんだよね」
お父さんは嫌いなものが多すぎて夕食のメニューを考えるのが大変だったから。
クローバーのメンバーも皆、私が作ったものを美味しいと完食してくれるので、作り甲斐がある。
「愛だねぇ~。もう結婚しちゃえば?」
「は!? なっ、何言ってんの梓!?」
春馬の態度からして、私のことが異性として好きだとは思いにくい。
口悪いし、ツン99%だし。
テレビの向こうでもデレは少ない方だけれど、テレビではもっと発言はマイルドだ。
というか、多分その99%ツンは私にのみ発動されている。
……あれ?
もしかして私、嫌われてる?
「でもさ、二人お似合いだよ? 弥生だってツッキーのこと好きでしょ?」
「へ?」
好き……?
春馬のことを、私が?
「だってさ、中学まではずーっと一緒にいたのに、高校は言ってあっちがアイドルになってから全然離せなくなって、しばらくあんたすっごい寂しそう、っていうか、捨てられた子狸みたいな顔してたじゃん」
「せめて子犬って言って」
何だ捨てられた子狸って。
だけどたしかに、あの頃は突然の変化に戸惑って、悲しくて、寂しくて仕方がなかった。
春馬はずっと隣にいるものだと、勝手に思ってしまっていたから。
「でも、誰が付き合うにしてもメンタルやられそうだけどね」
「え? 何で?」
「知らないの? ツッキー、今度恋愛映画の主役に抜擢されたんだよ」
「主役!?」
何それ初耳!!
まぁ、クローバーと同居しているとはいえ、それぞれの仕事の把握なんてしてはいないし、メイドが聞くことでもないから自分から聞くことすらなかったのだけれど。
元々芸能関係のニュースには疎いし。
そっか……春馬、頑張ってるんだ。
だけど次の瞬間、梓からの一言で、私の時が止まることになる。
「しかもこの恋愛映画、キスシーンがあるんだって」
──────────はい?
「キス………………シーン…………?」



