キーンコーンカーンコーン。

 校舎に響く鐘の音と同時に自分の教室へと滑り込む。

 春馬は隣の教室で、部屋に入ってすぐに毎日毎日飽きもせず女子の黄色い声が飛び交う。
 毎日、といっても、アイドル業をしている春馬は忙しい時にはなかなか学校に行くこともできないのだけれど……。
 それでも私が彼と登校するようになって、私まで注目されるようになってしまったことは確かで、私は少しばかり肩身が狭い思いをしている。

「あ!! 来た!! ねぇ竹中さん!!」
「へ?」

 教室に入るなり声をかけてきたのは、クラスの一軍で一番目立つギャル系女子──及川さんだ。
 まつ毛バッサー、お化粧ばっちり、揺れる金髪の艶やかさ。
 すらりとして綺麗な彼女は、モデルとしても活躍している人気者だ。
 そんな人が平凡な私に話しかける理由は、ただ一つ。

「今日も春馬君と登校してたよね? 二人ってやっぱり付き合ってるの?」

 あぁ、ほらやっぱり来た。
 だから一緒に登校したくないんだ。

 春馬の方は全く意に関せずで、私の隣を当たり前のように歩くのだから、こっちのことも少しは考えてほしいと思う。
 アイドルオーラを放つ春馬に真相を聞くことができない分、オーラとは無縁の私の方に話が来るのだから。

 そもそもアイドルというものは昔から恋愛禁止の気がある。
 それをわかっているからこそ、私もそんな噂に笑顔で首を横に振る。

「春馬とはただの幼馴染だから」

 この一週間でもう何度こう言っただろう。
 だけどきっとほとんどの人がただそれだけだとは思っていない。

 私の父の会社のことは知れ渡っているし、大財閥の幼馴染にここぞとばかりにひっついているんだろう。
 それがだいたいの、彼らの認識。
 それでもその不名誉な認識に耐えていかないと、春馬の傍にいることができないのだから、耐えるしかない。

 なぜ?
 失いたくない、大切な幼馴染だから。

 いつの間にかできていた距離感を寂しいと思っていたのは私だけかもしれない。
 だけど、せっかく縁があってまた春馬と話ができるのだから何でもいい。
 欲深い私は、ただそう思ってしまうのだ。