「んじゃ、俺は旅番組のロケ行って来るわ。帰りは遅くなるし、夕食はいらないからな」
「了解です!! つかささん、行ってらっしゃい」

「弥生ちゃーん、俺も雑誌の取材行って来るよー。行ってらっしゃいのチューしてー」
「えぇ!? ちゅ……はちょっと……えっと……行ってらっしゃい、英二さん」

「俺も学校行って来る。弥生も遅れないように行きなよ?」
「うん!! 葵裙、ありがと!! 行ってらっしゃいっ!!」

 あの衝撃的な一日から一週間が経った。
 メンバーの皆さんはとても気さくで、すぐにこの生活にも慣れてきた私は、朝食やその片づけを終えると洗濯をしてから学校で学生業。
 そして帰ったら部屋の掃除や夕食の支度と、メイド業となんとか両立させている。

 皆との中も良好。
 ただ一人を除いて────。

「……お前、何なの?」
「へ?」
 背後から低い声がして振り返ると、眉間に皺を寄せて超絶不機嫌な表情をした春馬がそこにいた。

「つか兄や英二、それに葵まであんなたらし込んで……」
「たらっ……!? そんなことしてないっ!!」
「してんじゃん。ニコニコニコニコと……」

 そんなことを言われても、不愛想にしていてもお世話になっている中で気まずいと思うんだけれど……。
 ……はっ……!!
 そうか、そういうことか……!!

「ふふぅん……」
「っ、何だよ、その気持ち悪い顔……」
 ニマニマと目を細めて春馬を見る私に、春馬は後ずさりしながら顔を引きつらせた。

「春馬、妬いてるんだ?」
「なっ!? なんで俺が……っ!!」

 あぁ、顔が赤くなってる。
 やっぱりそうだ。
 彼は嫉妬している。
 メンバーと打ち解けてしまった────私に。

「可愛いところあるじゃん春馬」
「は? 何が──っ」
「突然現れた女にメンバーを盗られた気がしちゃったんだね」
「──────は?」

 春馬は昔からクール99%のクーデレだ。
 いや、デレがあるのかどうかも私にはわからないけれど、幼稚園の頃はすごく甘えたがりだったから、根底ではそうなんだと思う。
 うんうん、春馬ったら可愛いところはまだちゃんと残っていたのね。

 私が一人ムフフと微笑んでいると、春馬は顔をひきつらせたまま「ちげぇ……」と言帝の言葉を発した。

 そして大きくため息をついてから、私の顔にその端整な顔をぐっと近づけた。
「っ!?」
 急に近づいた、幼稚園の頃とは全く違って大人になった男の顔に、思わず鼓動が大きく跳ねる。

「お前は、俺のメイドだろ?」
「へ? あ、うん……」
「なら、ちゃんと俺を見とけ。バカ」
「バッ!?」

 言うだけ言うと、春馬は私から離れてリビングから二つ分のカバンを持ち、一つを私に押し付けた。

「ん。行くぞ」
 そう言って私を置いて家を出る。

 何なんだ、いったい……。