「──というわけで、今日からお世話になります」

 玄関マットの上で正座をして、三つ指ついて帰宅した男たちに頭を下げる。
 そんな私を驚きに満ちた表情で見下ろすのは、我が幼馴染殿。
 あぁ、視線が……視線が痛い。

「──────は?」

 いや、うん、そうですよね。
 私が春馬の立場でもきっとその反応になるに違いない。
 なんたって仕事から帰って来てみれば、幼馴染が玄関でスタンバっているんだから。軽く恐怖だ。

 春馬と一緒に帰宅したクローバーのメンバーである他の三人も同様に今の事態を飲み込むことが出来ていない様子で、私を不審者を見るような目で凝視している。

 あの今をときめくクローバーのアイドルたちの視線を一身に受けながらも、私はぷるぷるとした手つきでおじ様から持たされていた手紙を春馬へと献上する。

「何これ。……………………はぁ……まじか……」
 春馬は受け取ったそれを目で読み進めてから、大きくため息をついた。

「あのクソオヤジ……」
「んー? なになにー? ……おぉぅ……」
「これは……」
「なるほどな……」
 悪態をつく春馬に、他の三人が手紙を覗き込むと、それぞれ苦笑いしながら反応した。

「つっても、お前ひとりにするわけにもいかねぇしなぁ……。つか兄……」

 まいったなぁ、とガシガシと髪を乱す春馬は、すぐ隣のメンバーの一人へと視線を移す。

 派手な金髪にわっかのピアスを両耳に三つずつ付けたヤンキー風の男──クローバーのリーダである神島つかささんだ。
 テレビで見るより本物は迫力があって、少しだけ委縮してしまう。

 だがびくびくとする私とは裏腹に、つかささんは私を見て目尻をくしゃりとさせて微笑んだ。

「俺は良いよ。部屋も余ってるし。人選に厳しいお前のオヤジさんが言うなら、信頼できる子だろう? それに、父親が蒸発して一人ぼっちって、この子も可哀想だしさ、かといってお前のオヤジさんとこで何もせずにいる気まずさもわかるし、ここに居てもらったら良いと思うよ」

 厳つい外見とは正反対の優しい眼差しで見つめられて、私は呆然とそれを見返す。
 テレビでも頼れる兄貴分キャラではあったけれど、あれ、本当だったんだ……。

「あーあー!! つかさが厳ついから委縮してんじゃん。可哀想にー。でも俺もこの子がいるのは賛成!! 可愛いしっ!!」
 そう言ってハハッと明るい笑顔を向けるのは、グレーシルバーのアシメヘアーが特徴の男性──確か名前は、綿貫英二さん。
 クローバーの明るいマスコット的な存在だったと記憶している。

「英二。あんま最初から距離詰めすぎると引かれるよ。俺もこの子が住むことには賛成。春と同い年ってことは俺とも学校は違えど同い年だし、困ったことがあったら何でも言ってね」
 穏やかに微笑むのは、微笑みの貴公子こと津田葵さんだ。
 同い年とは思えない落ち着きが、ファンを魅了してやまない魅力の一つだろう。

「うぅん……」
 それぞれのメンバーの意見を聞いて、春馬が唸った。そして────。

「……わかった。皆がいいなら…」
 渋々ながらに了承の意を示す春馬に、私はほっと胸をなでおろす。

「っ……!! ありがとうございますっ!! 精いっぱいメイドさん、務めるね!! 春────ご主人様っ!!」
「~~~~~~~~~~っ!!」

 こうして私は、トモダチのメイドとして、男4人のシェアハウスに同居することになったのだった。