〇大学・学部ラウンジ・昼休み
にぎわう学生たちの間で、ひなのがスマホを見て興奮している。
スマホ画面に告知画像《「春のスペシャルショー!」開催決定!》
ひなの「出たーっ! カレイドレンジャー、春のスペシャルショー!!」
朱音「ひなの、うるさい」
ひなの「聞いてよ、朱音! スペシャルショーは、普通のショーと違って、なんとなんと演じてる俳優さんも来るんだよ!」
朱音「会うの2週間ぶりだけど、ひなのは相変わらずで私は安心したよ」
朱音は呆れ顔でひなのを見つめる。
ひなの「あ、おかえり、朱音」
朱音「はいはい」
ひなの、再びスマホに視線を落とす。
ひなの《戦隊モノには、年に数回ファンイベントが開催される。ファンイベントは、通常のショーに加えて、テレビの俳優さんたちも出演する豪華なイベントなのだ》
朱音「じゃあ、あの灰野風雅も来るの?」
ひなの「もちろん!」
朱音「それは、いいなぁ~」
ひなの《人気俳優さんも来るから、チケットは争奪戦になること必至》
ひなの「これは……戦争だ……ッ」
宣言して立ち上がったひなのの後ろから、ぬっと夕夜が顔を出す。
夕夜「なにが戦争なんだ?」
ひなの「わっ、黒瀬くん……!」
朱音が目を点にして、ひなのと夕夜を交互に見つめる。(なんで知り合いなんだ?と驚いている。)
夕夜、ひなののスマホを覗き込む。距離が近い。
夕夜「へぇ、そんなイベントあるんだ。当たるといいな」
ひなの「う、うん、ありがと!」
夕夜、「じゃ」と言って去っていく。
朱音「おーい! いつの間に黒瀬夕夜と仲良くなってんの!? 詳しく聞かせろ〜」
ひなの「仲良くっていうか、なんかここ2週間くらい偶然良く会うことが多くて……レポート、一緒にやったりとか……」
ひなの、モゴモゴと言い訳。
朱音「偶然、ねぇ……」
納得いかない顔の朱音。
朱音「それ、絶対、黒瀬夕夜がひなののこと好きじゃん」
ひなの「いっ、いやいやいや、私、そんな好きになるようなこと何もしてないし!」
朱音考え込むような顔をしたあとに顔を上げる。
朱音「顔じゃない?」
ひなの「それ喜んでいいやつ……?」
〇大学構内・別の場所
夕夜「……また来てくれるよな」
夕夜は、スマホで同じ告知を見ている。珍しく、ふふっと笑い声を漏らす。
〇大学・講義室・別日
大講義室の中心に教授が立っている。
教授「この授業、最終回は各ペアでプレゼンね。調査テーマは自由です。次回までにはペアを決めておくように」
学生「えーっ」
ひなのは、いつものように朱音の横に座っている。
ひなの「朱音、組も――」
朱音「あー、そういえば! 私、他の子と組もうかと思ってたんだったぁ! ひなの、ごめんけど今回は誰か探して!」(大声)
ひなの「あっ、ちょっと朱音!?」
朱音「黒瀬夕夜と組めるといいね」(小声)
朱音立ち上がってどこかにいく。
そんなひなの、夕夜が憐みの視線を向けていることに気が付く。
ひなの《朱音、変な気使わないで!? ……黒瀬くん、めちゃくちゃ憐れんでくれてるよ!?》
ひなの《えーい! もうどうにでもなれ!》
ひなの、立ち上がって夕夜の元へ。
ひなの「黒瀬くん……あの、よろしければ、私とペアを組んでいただけると――」
夕夜「……もちろん。そのつもりだった」
ひなの「前期の授業が終わるまで、どうぞよろしくお願いします」
夕夜「こちらこそ。調べものは任せて」
遠くで親指を立てる朱音。げっそりした顔のひなの。
〇夜・居酒屋
先輩1「うぇーい! 新入生ちゃんたち可愛いねぇ」
先輩2「うちのサークル入らない?」
がやがやとした居酒屋。座敷席で盛り上がっている。チャラい先輩たちに絡まれて、困った顔のひなの。
ひなの「はは……」
朱音「ごめん、新歓だし、無料《タダ》飯食べられるかなぁと思って来たけど、まさかこんな感じだとは……ひなの、ごめんね」
気まずそうな朱音。
ひなの「いや、私だって食費浮かそうと思ってついてきちゃったし」
〇ひなのの回想
新入生歓迎会のチラシを渡される朱音とひなの。(デフォルメ)「タダなら行きます!」と食い気味のひなの。(※推し活にお金使いたいし!と独り言)
〇夜・居酒屋
盛り上がってるところで、立ち上がって手を叩いて場をしめる先輩。
先輩「じゃあ、ここで一旦お開きなので、二次会行く人はきてくださーい」
朱音(小声)「ちょうどよかった! このまま帰ろっか」
ひなの「うん」
〇居酒屋・外
先輩1「ひなのちゃん、めっちゃ可愛いじゃーん! 二次会行こう!」(茶髪でチャラそうな見た目)
ひなの「はは、ちょっと用事があって」
先輩「えー? こんな時間からぁ?」
肩を組んで来ようとしたので、スッと避けるひなの。
ひなの《帰りた……》
スマホをいじるひなの。インスタを開いている。
先輩1「てか、インスタ交換しようよ」
ひなの「えぇ……」
先輩1、勝手にひなののスマホを取り上げる。
ひなの「あっ、ちょっと」
先輩1「わっ、なにこれ!」
ひなののインスタアカウントを見た先輩1、馬鹿にしたように笑いだす。
先輩1「女なのに!? 戦隊モノ好きなん? てかオタク?」
ひなの「別に関係ないじゃないですか」
先輩1「ははっ、どう考えても変だろ!」
ひなの「スマホ返してください!」
先輩1、ひなのを馬鹿にしてスマホを高く吊り上げる。
言い返そうとした時、横から助けに入る影。
スマホを先輩から取り上げたあと、スマホはひなのの元に帰ってくる。ひなのが見上げると、夕夜がいる。
ひなの「黒瀬くん!? なんでここに」
夕夜「バイト帰り」
夕夜、ひなのを庇うように前に出る。
夕夜「……ダサいっすよ、先輩」
先輩1「はぁ? タダの冗談だろ? 何ムキになってんの」
夕夜「他人の好きなこと否定して、からかって。面白くない冗談ですね。笑いのセンスないですよ」
先輩1「……はぁ? 気分悪。萎えたわ~」
先輩1は去っていく。ひなのは夕夜に頭を下げる。
ひなの「黒瀬くん、ありがとう。本当に助かった」
夕夜、怖い顔をする。
夕夜「なんで、こんなチャラいサークルの新歓にいるの。危ないだろ」
ひなの「うう……それは、タダのご飯に釣られちゃって……」
夕夜「そんなんで浮いたお金で推し活したって、レッドは喜ばないぞ」
ひなの「おっしゃる通りで……」
しゅんと項垂れるひなの。ひなのの元に、朱音が慌てて駆けてくる。
朱音「ひなの! なんか変なのに絡まれてなかった……? って、うわっ、黒瀬夕夜!?」
夕夜「なんでフルネーム……?」
朱音「有名人だから……」
呆れ顔の夕夜。
夕夜「家まで送っていくよ」
朱音「……じゃあ、私は帰るね」
気を遣って帰ろうとする朱音を引き留める夕夜。
夕夜「赤星さん(朱音)も。夜の9時だけど、普通に危ないから」
朱音「……はい」
3人で並んで帰る。
〇屋外・ひなのの家の前
ひなののマンションのエントランス前。※一人暮らし用のマンション
ひなの「黒瀬くん、ありがとう。送ってくれて」
夕夜「あそこで見捨てていけないだろ。気を付けて」
ひなの「はい、肝に銘じます……」
向かい合うひなのと夕夜。ひなのが顔を上げる。
ひなの「今日はほんとにありがとう! 黒瀬くん、ヒーローみたいだった!」
夕夜「……!」
夕夜、驚いた顔でひなのを見つめる。
ひなの「おやすみ! また明日!」
〇大学・食堂
食堂で立ち上がるひなの。スマホには、「厳正なる抽選の結果、当選されました」の文字。
ひなの「よっしゃぁ! 当たったぁ!」
朱音「良かったね」
もくもくとご飯を食べ続ける朱音と、バンザイするひなのの対比。
ひなの「これで、カレイドレッドにも風雅様にも会えるー!」
騒ぐひなのの後ろには、夕夜。(食堂なので、定食のお盆を持っている。)ひなのに対して、複雑な表情をする。
ひなの「あっ、黒瀬くん! いたんだね」
夕夜、複雑な表情のまま尋ねる。
夕夜「灰野風雅、好きなの?」
ひなの「……うん、カレイドレッドが推しだからね!」
苦々しい顔をする夕夜。
ひなの「黒瀬くん、どうかした?」
夕夜「いや、なんでも」
お盆を持ったまま、うっすら笑顔を浮かべる夕夜。
夕夜「イベント、楽しんで」
ひなの、困惑した表情。夕夜、背を向けて去っていく。
そんな夕夜を朱音はニヤニヤとしながら見つめる。
朱音「恋だねぇ」
ひなの「何が?」
きょとんと朱音を見つめるひなの。

