〇バイト前の控室
スーツアクターたちが準備を始めている。
夕夜は一人、スーツを持ったまま、静かにロッカーにもたれて立ち尽くしている。
夕夜《スーツアクター。ヒーローの“中の人”――》
夕夜《誰にも顔も名前も知られない、汗だくの裏方》
夕夜《……“やりたいこと”じゃなかった。はずなのに――》
先日のひなのの声がフラッシュバックする。
ひなの「……好きです!」
夕夜、スーツを見下ろして、ため息をつく。
スタッフの呼び声「開演15分前でーす!」
夕夜、無言でスーツを手に控室を出ていく。
〇大学・キャンパス内のカフェテリア・昼休み
賑やかなカフェ。学生たちが談笑しながらランチをとっている。
席を探してうろうろしているひなの。手に持っているのは、おにぎりセットとコーヒー。
ひなの《しまった、混んでる時間に来ちゃった……》
ひなの《授業、ちょっと長引いたんだよね……》
ふと、空席を見つける。
ひなの「あ……空席発見!」
しかし、空席の横には、スマホを見つめて黙々とごはんを食べている黒瀬夕夜。
ひなの《あ、あの人って……クールで塩対応で有名な、イケメンの黒瀬くん!》
他の席を探そうとするが、空いていない。
ひなの、そっと近づく。
ひなの「あの……ここ、座っていい?」
夕夜(顔をあげて一瞬間があく)「……ああ、うん」
夕夜、ひなのをじっと見つめる。
ひなの「どうしたの?」
夕夜「いや……座りなよ」
夕夜、自分の隣の荷物を動かして、ひなのを促す。ひなの、笑顔で隣に座る。
ひなの《黒瀬くん。近くで見ても、とってもイケメンだ。女の子がメロメロになる気持ちも分かる》
夕夜「……何食べるんだ?」
ひなの《わっ、話しかけられた!》
驚きながらも、夕夜と会話を始める。
ひなの「これ、ロシアンおにぎりって言って……日替わりで中に入ってるものが変わるんだぁ。食べるまで味がわかんないの」
夕夜「大丈夫か、それ」
怪訝な顔の夕夜をよそ目に、ひなのはおにぎりに齧り付く。おっけーのサインを夕夜に送る。(おにぎりに矢印で「おかかだった」と書く)
もぐもぐとおにぎりを食べるひなの。
ひなの「あっ! そういえば、この前はパスケースありがとう」
夕夜「……なんで、俺が拾ったこと知ってるんだ」
ひなの「学生課の原田さんが教えてくれたの」
ひなのの頭上にデフォルメされた原田さん(おばちゃん)とひなの。「イケメンの黒瀬くんが持ってきてくれたのよー」と原田さんが言っている。
夕夜《うちの大学のプライバシーどうなってんだ》(呆れ顔)
ひなの「あ、あのっ、黒瀬くんだよね?同じ学部の」
夕夜「……うん。白石さん、だっけ」
ひなの「うん!」
ちょっと笑顔になって、もぐもぐとおにぎりをかじるひなの。
夕夜、視線をそらす。
夕夜《……白石ひなの。可愛いって噂だから、確かに前から知ってはいたけど――》
ひなの、きょとんとした顔でおにぎりを食べ続ける。
そんなひなのから顔を逸らして、苦い顔をする夕夜。(ギャグっぽい感じで)
夕夜《まさかの特撮オタク! そしてめちゃくちゃカレイドレッド推し!》
夕夜《でも、彼女は俺が“中の人”だなんて知らないんだよなぁ》
〇カフェテリア外・テラス
ランチを終えたふたりが少しだけ並んで歩く。
ひなの「黒瀬くんは……バイトとかしてる?」
夕夜「……ああ、まあ。ちょっと特殊なやつ」
ひなの「特殊?」
首を傾げるひなの。
夕夜「着ぐるみ着たり……するやつ」
顔を逸らしながら、夕夜は苦い顔。
ひなの《着ぐるみ!? まさかハピネスランドで働いてたりしないよね!? 私のオタク姿、見られたくないんだけど!》
ひなの、反応しかけるが、首を振ってすぐに切り替える。
ひなの「えーっと、キャラクターショーとか?」
夕夜「……まあ、そんな感じ」
ひなの《そんな感じ!? まさか、昨日のステージに立ってたりして……なんて、あるわけないか》
うんうん、と自分に言い聞かせるひなの。
ひなの「楽しそうなバイトだね。そういう夢を届ける仕事って、素敵だよね」
夕夜、目をぱっちりと開いて驚いてから、視線を落とす。少し赤らんだ顔。
夕夜「……うん。ありがとう」
ひなの、ドキッとする。
ひなの《照れてる……? 黒瀬くんって、クールで塩対応って言われてるけど、そんなことないの、かな》
夕夜「そういえば白石さんは何のバイトしてるの?」
ひなの「えーっとねぇ、私はファミレスでしょ? コンビニでしょ? あと、コールセンターと本屋さんと居酒屋とぉ――」
二人で並んで歩いている様子。
夕夜《その金、多分、全部特撮に消えてんな》
ひなの《そのお金、全部特撮に消えてるんだけど》
〇大学・講義室(後日)
教授が授業をしている様子。
教授に頭を下げて、静かに講義室に夕夜が入ってくる。(少し遅刻している)
夕夜《隣、いい?》(口パク)
ひなの、小さく頷く。周囲の女子からの視線が一斉にひなのに集中する。
ひなの《もうっ、朱音が休みなのなんでなのー! 隣に学部のアイドル来ちゃったよー!》
朱音(デフォルメでひなのの頭の中)「2週間、語学研修行ってくるわー! ごめん!」
夕夜が隣に座るが、特に会話はない。集中して授業を聞くひなの。
教授「だから、心理学というのは、凄く奥が深いんですよ。とある実験では……」
ひなのがノートにメモを取りながら、ふと横を見ると、夕夜がウトウトしている。
ひなの《あ、ねむそう……》
ペンを落とす夕夜。ひなのが拾って手渡す。ひなのが小声で話しかける。
ひなの「はい、落としたよ」
夕夜「……ありがとう」
ひなの「昨日は……バイト、大変だった?」
夕夜「……うん、ちょっとだけ」
ひなの「……そっか。頑張ってるんだね、黒瀬くん」
夕夜が目を伏せながら、小さく微笑む。
夕夜「……白石さんは、夢とかあるの?」
ひなの「夢? うーん……推しの幸せ、かな?」
夕夜「推し……?」
ひなの「うん。好きな特撮番組があって、今もずっと応援してるの。ちょっと変でしょ?」
ひなの、恥ずかしがりながらスマホのホーム画面を見せる。そこには、先日のカレイドレッドのショー中の写真。
夕夜「……好きなものがあるっていいな」
夕夜、爽やかな笑顔を浮かべる。
〇ひなのの部屋・夜
ベッドの上でごろごろしながらスマホをいじるひなの。部屋には沢山の特撮のフィギュアやタペストリーが飾られている。
ひなの「……黒瀬くんって、なんか……不思議な人だなあ」
夕夜を思い出すひなの。
ひなの《冷たそうなのに、案外優しくて、落ち着いて話せるというか……案外、人懐っこいというか》
なぜか、ひなのの脳内にレッドと夕夜が交差する。一瞬リンクしかけるが、すぐに切り替える。
ひなの「いやいや、なんで!? 別に黒瀬くんは推しじゃないし!」
枕に顔をうずめてバタバタ。
ひなの「今週末、またレッドに会えるんだから。……楽しみ、だなぁ」
ひなの、レッドのぬいぐるみをそっと撫でる。
〇週末・遊園地・ステージ前
ひなのがひとり、客席の後ろの方で座っている。レッドのグッズを身に着けている。(バッグには沢山の缶バッチとキーホルダー。Tシャツはレッドのもの)
ひなの《今日は小さいお友達の邪魔はしないんだから。大きいお友達は、後方で見るのがマナー!》
ひなの《まあ、この前は初日だったし、我慢できずに最前で見ちゃったんだけど》
舞台に登場するヒーローたち。
ひなの《始まった!》
レッド(中の夕夜)は、いつにも増してキレのある動きをする。
ふと、ひなのがじっと見つめていることに気づき、レッドがほんの一瞬、彼女の方を向いて小さく手を振る。
ひなの「……えっ?」
その仕草に驚き、ドキッとするひなの。
ひなの《まさか、私に……? いやいやいや勘違い……でも》
レッドがひなのに向かって指を差してる。
胸を押さえて真っ赤な顔をするひなの。ドキドキが止まらない。
夕夜(中の声)《白石さん、気が付いていてくれたらいいな》
スーツ姿の夕夜の背中と、それを見上げるひなのの笑顔のカット。

