○みかのバイト先・店内(夜)
みかモノ「緊急事態です! 星斗社長が、絶世の美女とディナーを食べています……!」
星斗と薫、談笑しながら、前菜やパスタを食べている。
みか(星斗社長はノンアルカクテルで、あの女性の方はワインだったな)
みか(ということは、年上の人か……)
みか(お取引先様? それともまさか 年上彼女……!)
テーブルの片付けをしながら、2人の様子が気になるみか。
そこに、子供連れの客から声がかかる。
子供連れの母「あの、すみません」
みか「はい! いかがなさいました?」
そんなみかの様子を見ている、星斗。
薫が星斗に話しかける。
薫「あの子のことが気になるの?」
星斗「ああ、はい。実は、大学の同級生なんです」
薫「あら、そうなの。何、まさかあの子がいるから、この店を選んだのかしら?」
星斗「違いますよ! 薫さんのリクエスト通り、評判のいいイタリアンを選んだら、たまたまです」
薫「ふうん? でもまあ、あなたのリサーチに嘘はなかったみたいね」
星斗「ん? どういうことです?」
薫「ほら、見てみなさい。あの子の接客」
みかが接客している、家族連れのテーブルを指差す薫。
子供連れの母「この子が、このミートソースを食べたいっていうんですけど、メニューに唐辛子マークがついているでしょ? 子供には辛いかしら」
子供「ぼく、大丈夫だよ! このミートソース、食べたい!」
みか「かしこまりました。このパスタがどのくらい辛いか、ですね。それでしたら……」
みか「ひとつ、ご質問してもよろしいでしょうか?」
みか「お客様はご家庭で、『あま辛めん』というカップラーメンを召し上がられることはありますか?」
みか、国民的カップラーメンとして有名な商品を例に出す。
子供「! 僕それ大好き! あ、ま、から〜♪ あ、ま、から〜♪」
カップラーメンのCMソングを歌いだす子供。
みかも笑顔で一緒に歌う。
みか「ふふ。そうそう。あ、ま、から〜♪」
みか、母親の方を見ながら、メニューを丁寧に手で示す。
みか「あの辛さがお好きなら、きっとこちらのミートソースもお好きかと思います」
みか「それでももしご不安でしたら、シェフと相談して、いつもより辛さを抑えることもできますので。ご遠慮なくおっしゃってください」
子供連れの客「まあ、ありがとう! でも、あま辛麺の辛さならきっと大丈夫だわ。じゃあ、これをひとつ」
みか「かしこまりました。お子様用の食器も添えて、お持ちしますね」
一連のやりとりを見守っている、星斗と薫。
星斗「素晴らしい接客ですね」
薫「ええ、そうね。辛さの感じ方は人それぞれのなかで、相手がイメージしやすい例を瞬時に出すその配慮。あの子、やるじゃない」
薫「……料理の味だけじゃ、飲食店の評判というものは、すぐ下がるものよ」
薫「ああいう、心のこもった接客ができる従業員がいるからこそ、事業はうまくいくの」
薫「私たちみたいな立場は、そういうことをちゃんと覚えておかないとね」
星斗「はい」
星斗の瞳には、生き生きと働くみかの姿が映っている。
○みかのバイト先・外(夜)
みか「お疲れ様でしたー!」
バイト終わり。私服姿のみか。
星空の下、思い切り背伸びをする。
みか(うーん! 今日もよく頑張った!)
みか(今日はお客さんが多かったから、雨宮くんと美女がいつ頃帰ったのかも、気がつかなかったな)
星斗「藍川さん」
みか「!?」
見ると、店の横に星斗の姿があった。
星斗「遅くまでお疲れ様。ここの料理、どれもすっごく美味しかったよ」
みか「わあ、本当? ありがとう! 店長にも今度、伝えておくね」
みか「……でも、どうして雨宮くんがここに? もうお食事は終わったと思ってた」
星斗「うん。20分くらい前に、お店は出たんだけど……」
星斗「藍川さんのこと 待ってたんだ」
星斗のまっすぐな言葉を受けて、咄嗟に聞きかえすみか。
みか「嘘!?」
星斗「嘘」
みか「えっ どっち……?」
星斗「あはは。ごめんごめん。藍川さんと、もっと話したかったのは本当」
星斗「けど、いつバイト終わるのか聞くのは、邪魔になるだろうから。薫さんを送ってから、もう一回だめもとで戻ってきたんだ」
星斗「そしたら会えた。ラッキー」
くしゃっと笑う星斗。
その笑顔にキュンとしながらも、薫の存在が気になるみか。
みか「えっと……薫さんっていうのは、さっきのお連れ様?」
星斗「うん。俺たちの先輩」
みか「俺、たち?」
星斗「藍川さんにとっても先輩なんだよ。俺たちと同じ大学の卒業生だから」
星斗「薫さんは、美容系の会社を経営してるんだ。大学時代に起業しててさ」
みか「……! あの人も社長さんだったんだね」
みか「すごいなあ……。雨宮くんも、薫さんって人も」
みか「大学時代から、好きなことや、やりたいことを見つけてるんだね」
みか「私とは……別世界の人だよ」
みか、困ったように笑う。
そんなみかに、星斗は首をかしげて声をかける。
星斗「そうかな。俺たち、何も変わらないと思うけど」
みか「え?」
きょとんとするみか。
優しげな表情で、こちらを見ている星斗。
星斗「だって……藍川さん。このお店、好きでしょ」
星斗「接客を見てたらわかるよ。このお店のこと、料理のこと、お客さんのこと。好きなんだなって、しっかり伝わってきた」
星斗「藍川さんはちゃんと、見つけられる人だと思うよ」
星斗「自分の好きなことや、やりたいことを見つけて、それをひとつずつ、叶えられる人だと思う」
星斗「俺が、保証する」
みか。その言葉に、ハッとした表情。
グッと胸が詰まり、泣きそうになる。
みかモノ「心の奥が、震えた」
みかモノ「だってその言葉は……心の中でずっと、お守りにしていたから」
みかモノ「彼と別の高校に行って、会えない間も」
みかモノ「自分の好きが、わからなくなったときも」
みかモノ「心の奥で、ずっと覚えていた」
○回想・中学時代の教室(昼)
中学のみか「私もいつか、雨宮くんみたいに、やりたいことが見つかるのかな」
中学のみか「社長になるとか……。今の自分じゃ思いつかないような、何かを」
中学の星斗「見つかるよ」
中学時代の生徒、フニャッとした顔で、みかに向かって微笑む。
中学の星斗「だって、藍川さんは、すぐ顔に出るもん」
中学の星斗「それって、心がちゃんと、動いてる証拠でしょ?」
中学の星斗「そういう人は、見つかるよ」
中学の星斗「俺が保証する」
中学の星斗「だからそのときは、俺に教えてね」
○回想・実家のみかの部屋(昼)
みかの母「みか。今日は棚の整理、お願いしてもいい?」
高校のみか「うん、わかった」
高校時代のみか。双子の育児グッズが増えて、家族共有の棚を整理している。
棚のなかの段ボールの中から出てきたのは、あのWISH LISTの単語帳。
高校のみか「わあ。懐かしい……」
高校のみか「……雨宮くん、元気かな……」
高校のみか「もう会うことは、ないんだろうけど……」
みか、単語帳をそっと、段ボールの中に戻す。
みかモノ「もう会えないと思っていても、捨てられなかった」
みかモノ「あのWISH LISTだけは…… だって……」
回想終わり。
○みかのバイト先・外(夜)
目の前に、今の星斗がいる。
みかモノ「雨宮くんのこと、好きだったから」
みかモノ「だけど……中学3年生で、別のクラスになって。あっという間に、別の高校になって」
みかモノ「何も、伝えられなかった。私の気持ち」
みかモノ「思い出すと寂しくて、会えないと思うと苦しくて」
みかモノ「高校生活もめまぐるしく過ぎていって、いつの間にか、どこかに置いていた気持ち」
みかモノ「でも、もうーー」
みか、何かを決心したような表情。
みか(この『好き』を、離したくない)
みかモノ「緊急事態です! 星斗社長が、絶世の美女とディナーを食べています……!」
星斗と薫、談笑しながら、前菜やパスタを食べている。
みか(星斗社長はノンアルカクテルで、あの女性の方はワインだったな)
みか(ということは、年上の人か……)
みか(お取引先様? それともまさか 年上彼女……!)
テーブルの片付けをしながら、2人の様子が気になるみか。
そこに、子供連れの客から声がかかる。
子供連れの母「あの、すみません」
みか「はい! いかがなさいました?」
そんなみかの様子を見ている、星斗。
薫が星斗に話しかける。
薫「あの子のことが気になるの?」
星斗「ああ、はい。実は、大学の同級生なんです」
薫「あら、そうなの。何、まさかあの子がいるから、この店を選んだのかしら?」
星斗「違いますよ! 薫さんのリクエスト通り、評判のいいイタリアンを選んだら、たまたまです」
薫「ふうん? でもまあ、あなたのリサーチに嘘はなかったみたいね」
星斗「ん? どういうことです?」
薫「ほら、見てみなさい。あの子の接客」
みかが接客している、家族連れのテーブルを指差す薫。
子供連れの母「この子が、このミートソースを食べたいっていうんですけど、メニューに唐辛子マークがついているでしょ? 子供には辛いかしら」
子供「ぼく、大丈夫だよ! このミートソース、食べたい!」
みか「かしこまりました。このパスタがどのくらい辛いか、ですね。それでしたら……」
みか「ひとつ、ご質問してもよろしいでしょうか?」
みか「お客様はご家庭で、『あま辛めん』というカップラーメンを召し上がられることはありますか?」
みか、国民的カップラーメンとして有名な商品を例に出す。
子供「! 僕それ大好き! あ、ま、から〜♪ あ、ま、から〜♪」
カップラーメンのCMソングを歌いだす子供。
みかも笑顔で一緒に歌う。
みか「ふふ。そうそう。あ、ま、から〜♪」
みか、母親の方を見ながら、メニューを丁寧に手で示す。
みか「あの辛さがお好きなら、きっとこちらのミートソースもお好きかと思います」
みか「それでももしご不安でしたら、シェフと相談して、いつもより辛さを抑えることもできますので。ご遠慮なくおっしゃってください」
子供連れの客「まあ、ありがとう! でも、あま辛麺の辛さならきっと大丈夫だわ。じゃあ、これをひとつ」
みか「かしこまりました。お子様用の食器も添えて、お持ちしますね」
一連のやりとりを見守っている、星斗と薫。
星斗「素晴らしい接客ですね」
薫「ええ、そうね。辛さの感じ方は人それぞれのなかで、相手がイメージしやすい例を瞬時に出すその配慮。あの子、やるじゃない」
薫「……料理の味だけじゃ、飲食店の評判というものは、すぐ下がるものよ」
薫「ああいう、心のこもった接客ができる従業員がいるからこそ、事業はうまくいくの」
薫「私たちみたいな立場は、そういうことをちゃんと覚えておかないとね」
星斗「はい」
星斗の瞳には、生き生きと働くみかの姿が映っている。
○みかのバイト先・外(夜)
みか「お疲れ様でしたー!」
バイト終わり。私服姿のみか。
星空の下、思い切り背伸びをする。
みか(うーん! 今日もよく頑張った!)
みか(今日はお客さんが多かったから、雨宮くんと美女がいつ頃帰ったのかも、気がつかなかったな)
星斗「藍川さん」
みか「!?」
見ると、店の横に星斗の姿があった。
星斗「遅くまでお疲れ様。ここの料理、どれもすっごく美味しかったよ」
みか「わあ、本当? ありがとう! 店長にも今度、伝えておくね」
みか「……でも、どうして雨宮くんがここに? もうお食事は終わったと思ってた」
星斗「うん。20分くらい前に、お店は出たんだけど……」
星斗「藍川さんのこと 待ってたんだ」
星斗のまっすぐな言葉を受けて、咄嗟に聞きかえすみか。
みか「嘘!?」
星斗「嘘」
みか「えっ どっち……?」
星斗「あはは。ごめんごめん。藍川さんと、もっと話したかったのは本当」
星斗「けど、いつバイト終わるのか聞くのは、邪魔になるだろうから。薫さんを送ってから、もう一回だめもとで戻ってきたんだ」
星斗「そしたら会えた。ラッキー」
くしゃっと笑う星斗。
その笑顔にキュンとしながらも、薫の存在が気になるみか。
みか「えっと……薫さんっていうのは、さっきのお連れ様?」
星斗「うん。俺たちの先輩」
みか「俺、たち?」
星斗「藍川さんにとっても先輩なんだよ。俺たちと同じ大学の卒業生だから」
星斗「薫さんは、美容系の会社を経営してるんだ。大学時代に起業しててさ」
みか「……! あの人も社長さんだったんだね」
みか「すごいなあ……。雨宮くんも、薫さんって人も」
みか「大学時代から、好きなことや、やりたいことを見つけてるんだね」
みか「私とは……別世界の人だよ」
みか、困ったように笑う。
そんなみかに、星斗は首をかしげて声をかける。
星斗「そうかな。俺たち、何も変わらないと思うけど」
みか「え?」
きょとんとするみか。
優しげな表情で、こちらを見ている星斗。
星斗「だって……藍川さん。このお店、好きでしょ」
星斗「接客を見てたらわかるよ。このお店のこと、料理のこと、お客さんのこと。好きなんだなって、しっかり伝わってきた」
星斗「藍川さんはちゃんと、見つけられる人だと思うよ」
星斗「自分の好きなことや、やりたいことを見つけて、それをひとつずつ、叶えられる人だと思う」
星斗「俺が、保証する」
みか。その言葉に、ハッとした表情。
グッと胸が詰まり、泣きそうになる。
みかモノ「心の奥が、震えた」
みかモノ「だってその言葉は……心の中でずっと、お守りにしていたから」
みかモノ「彼と別の高校に行って、会えない間も」
みかモノ「自分の好きが、わからなくなったときも」
みかモノ「心の奥で、ずっと覚えていた」
○回想・中学時代の教室(昼)
中学のみか「私もいつか、雨宮くんみたいに、やりたいことが見つかるのかな」
中学のみか「社長になるとか……。今の自分じゃ思いつかないような、何かを」
中学の星斗「見つかるよ」
中学時代の生徒、フニャッとした顔で、みかに向かって微笑む。
中学の星斗「だって、藍川さんは、すぐ顔に出るもん」
中学の星斗「それって、心がちゃんと、動いてる証拠でしょ?」
中学の星斗「そういう人は、見つかるよ」
中学の星斗「俺が保証する」
中学の星斗「だからそのときは、俺に教えてね」
○回想・実家のみかの部屋(昼)
みかの母「みか。今日は棚の整理、お願いしてもいい?」
高校のみか「うん、わかった」
高校時代のみか。双子の育児グッズが増えて、家族共有の棚を整理している。
棚のなかの段ボールの中から出てきたのは、あのWISH LISTの単語帳。
高校のみか「わあ。懐かしい……」
高校のみか「……雨宮くん、元気かな……」
高校のみか「もう会うことは、ないんだろうけど……」
みか、単語帳をそっと、段ボールの中に戻す。
みかモノ「もう会えないと思っていても、捨てられなかった」
みかモノ「あのWISH LISTだけは…… だって……」
回想終わり。
○みかのバイト先・外(夜)
目の前に、今の星斗がいる。
みかモノ「雨宮くんのこと、好きだったから」
みかモノ「だけど……中学3年生で、別のクラスになって。あっという間に、別の高校になって」
みかモノ「何も、伝えられなかった。私の気持ち」
みかモノ「思い出すと寂しくて、会えないと思うと苦しくて」
みかモノ「高校生活もめまぐるしく過ぎていって、いつの間にか、どこかに置いていた気持ち」
みかモノ「でも、もうーー」
みか、何かを決心したような表情。
みか(この『好き』を、離したくない)
