○みかの部屋(昼)
由美子「それで!? 星斗社長とはどうなったの!?」

丸テーブル越しに身を乗り出す由美子。
わくわくしている表情。

みか「どうって、どうもなってないよ?」
みか「アイスご馳走してもらって、駅まで送ってもらってそのまま解散」
由美子「なんだ〜。でも連絡先くらいは交換したんでしょ?」
みか「うん……。それはまあ、一応……」

照れながら目線を逸らすみか。



○回想・電車に乗っているみか(夕)
SNSのメッセージアプリを見ているみか。

みか【今日は本当にありがとう。アイスご馳走様です!】
雨宮【こちらこそありがとう。すごく楽しかったよ】

画面を見て、微笑んでいるみか。
だがすぐに「!」となる。
画面には、みかがアイスを美味しそうに食べている写真。

みか【何これ!】
雨宮【今日の記念写真。いい顔してるでしょ】
雨宮【また一緒に、何かやろうね】

みか、雨宮の次の誘いに、ときめいている表情。

みか【うん。楽しみ!】

と送信した画面。



○回想終わり
由美子、テーブルに頬杖をつきながら、にやにやしている。

由美子「いいね〜。恋してる顔だ」
みか「え。そ、そうかな?」
由美子「違うの? だって、同級生と運命の再会! 相手は若手社長に大変身! しかも2人で原宿デート!」
由美子「って、両思い確定じゃん!」
みか「うーん……」
由美子「なになに? その煮え切らないリアクション」
由美子「みかは星斗社長のこと、好きじゃないの?」
みか「『好き』か……」
みか「なんか、うまく……わからないんだよね」

みか、先ほど自分で淹れたカップの中の紅茶を見つめている。
切なげな表情。

由美子「……」

由美子、少し心配している様子の表情だが、あえて優しさから何も聞かない。

みかモノ「私はいつから『好き』がわからなくなったんだろう」
みかモノ「アイスのときだってそうだ」
みかモノ「自分の『好き』や『やりたい』が、今はどこか、遠くに感じる気がする」
みか(それは、いつからだろう……。ううん、そんなの、自分でわかってる」
みか(『あの日から』だよな……)



○回想・みかの実家のマンションの一室(昼)
ベビーベッドに並ぶ、双子の赤ちゃん。
当時のみか、高校一年生。
高校の制服を着ながら、双子に向けてキラキラした表情を向ける。

高校のみか「可愛い〜〜〜!」

みかモノ「高一の時、双子の弟と妹ができた」
みかモノ「嬉しくて、可愛くて、でも家はてんやわんや」
みかモノ「お父さんは仕事、お母さんは育児」

お父さんは仕事で、お母さんは育児でバタバタしている描写。

みかモノ「そんな両親を、家事で助けたいと思った」

みか、高校の服で皿洗いや掃除、料理をしている。

みかモノ「お父さんやお母さんと、双子ちゃんの成長を見て、可愛いねっていう時間は幸せだ」

両親と一緒に、双子と遊んでいる笑顔のみか。

みかモノ「だけど……」


○回想・みかの家:リビング前の廊下(夜)
リビングの扉が開いていて、両親の会話を、パジャマ姿のみかが聞いてしまう。

みかの母「やっぱり、赤ちゃんが一気に2人って、やりくりが大変よね…」 
みかの父「悪いな。俺も頑張って出世して、給料あげるから」
みかの母「何言ってるの。あなたも十分、頑張ってくれてるじゃない」

そっと部屋に戻るみか。
机の上にあった、海外留学のパンフレットを、引き出しの中にしまう。

みかモノ「いつの間にか、自分の『やりたい』を言えなくなった」
みかモノ「あの日、お母さんと久しぶりに、お買い物に行ったときもそうだ……」



○回想・41アイスの店舗の前(昼)
高校のみか「お母さん。本当にトリプルアイス、買ってくれるの?」
みかの母「もちろん。みかにはいつも、助けてもらってるからね」
高校のみか「やったあ! じゃあ私、これとこれとこれがいいな!」

チョコレート系のアイスを三つ選ぶみか。

みかの母「あら、チョコばっかりじゃない。せっかくなら、いろんな味を食べたら?」
高校のみか「そ……そうかな?」

そこに、みかの母のスマホが鳴る。

みかの母「まあ大変。パパからのSOSだわ。双子ちゃんが泣き止まないって」
高校のみか「じゃあ、早く帰らないとだね! お母さん。アイスはまた、今度でいいよ」
みかの母「そう? ごめんね、みか」
高校のみか「ううん。全然大丈夫」

申し訳なさそうな母の顔。
みか、明るく振る舞う。
回想終わり。


○みかの部屋(昼)
由美子が帰った後。部屋の棚に飾ってある、家族写真を見るみか。
2歳(みかは当時高3)の、双子の誕生日会の写真。



○回想・みかの実家(夜)
両親2人が、誕生日ケーキを頬張るみかに話しかけている。

みかモノ「本当は大学も実家から通うはずだったけど……」
母「みか。あなた本当は、ひとり暮らしがしたいんでしょ」
父「この3年。みかには頼りっぱなしだったからな。大学は、うんと好きなことやりなさい」

回想終わり。



○みかの部屋(昼)
みか「好きなこと、か……」

みか、テーブルの上に置いておいた、
中学時代の自分のWISH LIST(単語帳)を取り出す。
それを1枚、ぱらりとめくり、
「1.髪を染める」の文字を指でなぞる。

2話の、星斗「やりたいことがあるなら、今からでもやってみない?」を思い返す描写。

みか「今からでも……」



○みかのバイト先(夜)
店長「まあ。みかちゃん!」

店長、驚いた表情。
みか、茶色のボブにして、バイト先の制服に着替えている。

みか「どう、ですかね……?」

頬を指でかきながら、はにかんだ表情。

店長「可愛いわ〜! いいわね、イメチェン! 大学生って感じね!」
みか「えへへ……はい!」

嬉しそうなみか。

店長「じゃあそろそろ、ディナー営業始めましょうか。みかちゃん、看板出してきてもらえる?」
みか「わかりました!」

みか、扉を開けて看板を出す。
すると、そこにはもうお客さんらしき人影がひとり。
それは……。

星斗「……藍川さん?」

この前とはまた別のスーツに身を包んだ、星斗だった。

みか「雨宮くん! え、もしかして、うちの店でお食事ですか?」
星斗「うん。この辺りで評判のいいイタリアン探してて、ここにしようかなって」
星斗「よかった。藍川さんが働いてるとこなら、間違いないね」

みか、星斗が信頼してくれている様子の口ぶりに、キュンとなる。

みか(いやいや。私も今は、仕事中…!)

ブンブンと首を振り、店員としての笑顔を浮かべるみか。

みか「ご来店ありがとうございます。
   当店、どの料理も自信を持ってお勧めできますので、
   どうぞお召し上がりください」

みかのギャップに、星斗も驚き&惹き込まれているような表情。
ふっと表情を緩めて、一瞬、目を閉じる星斗。

星斗「やっぱり、このお店にしてよかった」
みか「? 何か言った?」
星斗「ううん、なんでも。それと、藍川さん……」

星斗、みかに一歩近づき、顔を近づける。

星斗「その髪型、すっごく似合ってる」
星斗「願い事2つ目、叶えたんだね」
みか「う、うん……! あ、ありがとう……」

みか、星斗が髪型に気づいてくれたこと、
それは自分の願い事のひとつだったことを覚えてくれたこと、
その両方に驚きと嬉しさと照れくささで、つい俯いてしまう。
すると、そこに聞こえてきたのは女性の声。

薫「星斗、待たせたわね」
星斗「あ。(かおる)さん」

ハイヒールに、セットアップのジャケットとパンツ。
腰まである黒髪は緩く巻かれている。
ブランド物のバッグを持った、大人の女性がいた。