○大学の教室(昼)
みか「ほ、本当に 雨宮くんなの……?」
星斗「そうだよ これが何よりの証拠でしょ」

星斗、笑顔で自分の単語帳に触れる。

みか(全っ然、気づかなかった……!)
みか(見た目も雰囲気もあの頃と違いすぎるし、星斗社長って名前は知ってたけど、苗字は聞いたことなかったっけ)

星斗、わざと少しいじけたような、
悪戯っ子ぽい表情で、頬杖をつき、みかを見つめる。

星斗「俺は入学してすぐ、藍川さんがいるなって気づいてたよ」
みか「え、そうなの!?」
星斗「うん。変わってないから、すぐわかった」
みか「変わってない…… 確かに、まだ髪も染めてないし、髪の長さもずっとこのまんまだ」

みか、自分の単語帳をぱらぱらとめくる。

「1.髪を染める」「2.バイトのお金で遊園地に行く」の文字。

みかモノ(こう見ると、私のお願い事って全然叶ってないなあ)

少し寂しげな表情のみかの横顔を、星斗がじっと見ている。
優しい声で、みかに話しかける。

星斗「……変わるのがいいことばかりとは、思わないけどさ」
星斗「やりたいことがあるなら、今からでもやってみない?」

星斗、すごく優しげな表情。

みか「え……?」
星斗「ほら。これなんかどう?」

星斗が、みかの単語帳に触り、3枚目をめくる。
そこには「3.41(フォーティーワン)のアイスを食べる」の文字が。
星斗、みかの方を見て、茶目っ気のある表情を向ける。

星斗「この後 空いてる?」



○原宿・竹下通り(昼)
星斗「原宿なんて 久しぶりにきたなー」

星斗、楽しそうにいろんな店が並んでいる光景を見てる。
その隣を歩いているみか。内心ツッコまざるを得ない状況。

みか(どうして、こんなことに!?)
みか(由美子にも、後でちゃんと説明しなきゃなあ……)

<授業終わり、短いプチ回想>
デフォルメっぽいイラストで下記のやり取りがあったことがわかる。
星斗「藍川さんのこと、この後お借りしていいですか?」
由美子「……! もちろん! どうぞどうぞ」
みか「どうぞどうぞって……!」



○原宿・竹下通り(昼)
星斗「41、あったよ。あそこでいい?」

アイス屋の看板を指差す星斗。
2人で、店の外にあるメニュー表に近づき、眺める。
そこには41種類の味が掲載されている。

みか「すごい種類だね。迷うな……」
星斗「でも、この迷う時間が楽しくない?」

星斗の楽しそうな表情につられて、「うん」と微笑むみか。

星斗「そういえば、なんで藍川さんは、WISH LISTに『41食べたい』って書いてあったの?」
みか「えー。だって、憧れだったんだよ。41のアイスって500円くらいするじゃん。
   私、中学のときはスーパーのアイスしか食べたことなかったもん」
星斗「ああ、なるほどね。そういえば、俺たちが中学の時って、夏とかCMしてなかった?
   『今はトリプルがお得!』みたいな」
みか「してたしてた!」

いつの間にか緊張が抜け、星斗と笑い合うみか。

みか(星斗社長って、本当に雨宮くんなんだな……)
みかモノ「ついさっきまで遠い人のはずだったのに。かつて、同じ時間・同じ場所(がっこう)を共有していたんだと感じる」

みか、目の前の看板に視線を戻す。

みか「ほんと、トリプルなんて夢だったな〜。アイスが3つも食べられるんだもん!」
星斗「夢じゃないでしょ」
みか「え?」
星斗「だって、これから叶えるんだから」

星斗、きらきらした笑顔で、みかに3本指を見せる。

星斗「今日はもちろん、トリプルでいくよね」
みか「え、そうなの!?」
星斗「そうだよ。だって藍川さんは、それが夢だったって言ったでしょ」
星斗「夢ってことは、叶えたかったんだよね。やりたかったんだよね」
星斗「じゃあ、やろうよ! だってそっちの方が……」
星斗「わくわくしない?」

みか、そう語る星斗の表情に、引き込まれる。

みか「わくわく、する」
星斗「じゃあ、決まり」
星斗「どれにしようかな〜。3/41か〜」

わくわくした顔でメニューを眺める、星斗。
その横顔を見つめる、みか。

みかモノ「この人はこうやって、自分の夢を叶えてきたのかな」
みかモノ「私も、こんな顔で笑えたら、きっと楽しいだろうな」

星斗、みかの方に顔を向ける。

星斗「藍川さんは、アイス3種類、何にする?」
みか「ん〜。どうしようかな〜」

みか、メニュー表を指さす。

みか「季節限定と、今日のおすすめと……」

そう呟いたところ、星斗がメニュー表を手のひらで隠そうとする。

星斗「だーめ」

星斗、ちょっとだけ真剣な表情になる。

星斗「それ、本当に自分が食べたいやつ?」
星斗「これ『で』いいかなって思ってない?」

どきっとするみか。
星斗、表情を緩める。

星斗「ごめんごめん。こんなこと言われたら、楽しくないか。でもさ……」
星斗「俺、藍川さんが本気で『食べたい!』って思うもの、知りたいんだよね」
星斗「だめ? 俺に、教えてくんない?」
みか「どうして……」
みか「どうして雨宮くんは、私のこと、そんなふうに気にかけてくれるの?」
みか「アイス一緒に食べにきてくれたり、私が食べたいものを考えようとしてくれたり」
星斗「それは……」
星斗「今は、秘密」

自分の口に人差し指を当てる星斗。

星斗「藍川さんが、3つの味を全部ちゃんと選べだら、教えてあげる」
みか「え〜! 何それ」
星斗「いいじゃん。ほら、選ぼう」

星斗のペースに飲み込まれながら、
改めてメニュー表をじっくり見つめるみか。

みか(うーん。お店でメニューを選ぶときって、おすすめとか期間限定で、なんとなく選んでたからなあ)
みか(でも、そうするようになったのって……そういえば、いつからだろう……?)
みか(中学の時は、確かにもっと『これが食べたい!』って言えていた気がする)

みか、意外と即決できない自分に、少し戸惑う。

みか「ごめんね。選ぶの、結構時間かかっちゃうかも」
星斗「全然。ゆっくり選ぼうよ」
星斗「『好き』ってすぐに、見つけなくていいんだからさ」
みかモノ「雨宮くんは、不思議な人だ」
みかモノ「なんでも許してくれそうで」

星斗の「ゆっくり選ぼうよ」を思い返す演出。

みかモノ「見逃してくれないところもあって」

星斗の「これ『で』いいかなって思ってない?」を思い返す演出。

みかモノ「それでも、こっちの背中を押してくれる」

星斗の「そっちの方が……わくわくしない?」を思い返す演出。

みか、そっと目を閉じている。
自分の心の奥から、いつもと違う、わくわくのカケラのような、
うきうきした感覚を感じている、穏やかな表情。
みか、改めて目を開ける。瞳がキラキラしている。
すっと、メニュー表を指さす。

みか「決めた!」
みか「チョコナッツパラダイスと、チョコモカスペシャルと、チョコバナナストロベリーにする!」
星斗「いいね! チョコ三昧じゃん!」
みか「うん! 実はね、41のトリプルアイス、高校になってから一度だけ、食べられるチャンスがあったんだけど」
みか「この3種類を、選ぶ勇気が出なかったの」

みか、高校時代の母と買い物したときのことを思い出す(母の顔は半分隠れている・3話の伏線)。



○回想・41店舗の前(昼)
みかの母「あら チョコばっかりじゃない せっかくならいろんな味を食べたら?」
みかの母「遠慮しなくていいのよ」
回想終わり。



○原宿・41店舗の前(昼)
みかモノ(その言葉が、嫌だったわけじゃない。傷ついたわけじゃない)
みかモノ(だって私の中にも、同じことを思う自分がいたから)
みか(アイスの味を選ぶだけなのに。いつの間にか、自分の『食べたい』がわからなくなってたな)
みか「だけど……」
みか「今日はこれ、絶対食べたい!」

みか、星斗の方を見る。
その表情は、はにかむような、でも強い意志を感じられる、引き込まれる表情。

みか「だめ、かな?」

みかの表情と言葉に、一瞬不意を突かれ、見惚れる星斗。
すぐに、ふっと唇を緩め、くしゃっと笑う。

星斗「だめなわけないじゃん。最高!」
星斗「俺、買ってくるね」
みか「え、雨宮くん……!?」


○41店舗内・イートインスペース(昼)
テーブル席にソワソワした様子で座っているみか。

星斗「はい。どうぞ」

トリプルのアイスが乗ったカップを差し出す星斗。

みか「ありがとう! あの、お金払うね」
星斗「いいのいいのそんなの。ほら早く食べないと溶けちゃうよ。あーん」
みか「!?」

星斗、ナチュラルにスプーンでアイスを食べさせてくれる。
みか、断るタイミングもわからず、流れでそのまま「えいっ」とスプーンをパクリ。
すぐに、あまりの美味しさに、あーんされたことも忘れて、ぱあっと顔を輝かせるみか。

みか「美味しい!」
星斗「あはは。可愛い」
みか「……!」

みか、我に返り、かあっと照れる。
星斗はにこにこしながら、改めてみかにアイスのカップを渡す。

星斗「どうぞ。ゆっくり食べて」
みか「あ、ありがとうございます…」

みか、自分が選んだトリプルアイスを眺める。

みか(やっぱり、見事な茶色だなあ……)

みか、スプーンでアイスを一口食べて、「ん〜!」と美味しい顔。

みか(けど、やっぱり最高!)
みかモノ「今目の前に、私が選んだものがある。望んだものがある」
みかモノ「人から見たら、ほんのささいなことかもしれないけど」
みかモノ「今確かに、私のお願いが叶ったんだ」
みか「これ『が』 食べたかった!」

みか、最高の笑顔で呟く。
星斗、頬杖をついて、嬉しそうにみかのことを見ている。

星斗「その顔が見たかったんだよね」

アイスを頬張りながら、聞き返すみか。

みか「ん?」
星斗「さっき聞いたでしょ。俺がなんで、藍川さんのこと気にかけるのかって」

みか、さっき自分が問いかけた
「どうして雨宮くんは、私のこと、そんなふうに気にかけてくれるの?」
という質問を思い出す。

星斗「3つの味を選んだら教えるって言ったから、今のが俺の答え」
星斗「藍川さんの、その顔が見たかった」

星斗、まっすぐに、みかの顔を見つめる。
みかの心臓が、どきどきと高鳴る。

みか「そ、その顔って、どんな顔…?」
星斗「その答えは、まだ秘密にしようかな」
星斗「藍川さんが、3つ目のお願い事を叶えたときに教えるよ」
みか「え〜!」
星斗「だから今は、これで許して」

みかの口元に、スプーンを差しだす星斗。
それはトロピカルな色合いのアイス。

みか「えっ。もしかしてこのアイス、期間限定のやつ?」
星斗「ピンポーン。こっちもやっぱり食べたくなるかなって思って」
みか「雨宮くん……」
みかモノ「どうしてこんなに、優しくしてくれるんだろう」
みかモノ「私の背中を押すだけじゃなくて。こんなふうに、支えてもくれる」

みか、中学時代、机の上で寝てばかりだった雨宮の姿を思い出す。

みかモノ「知りたい」
みかモノ「彼が、何を考えているのか」
みかモノ「会わない間、彼に何があったのか」
みか(……いつか、教えてもらえる日が、くるのかな)