〜プロローグ〜
○横浜・みなとみらい(夜)
夜景をバックに、
みかに向かって手を差し伸べて微笑む、星斗のアップ。
星斗「俺と叶えようよ、一緒に」
星斗「願い事、全部」
みか、きらきらとした瞳で、星斗と自分の未来にときめいている表情。
みかモノ「私の願い事……やりたいこと、好きなこと」
みかモノ「もう一度、見つけたい」
みかモノ「この人と」
〜1話本編〜
○みかの頭の中のイメージ(特に背景なし・キラキラふわふわ系のトーンなど)
目を閉じている主人公みか。黒髪ストレートロング。
わくわくを想像している表情。
みかモノ「大学生。それは、小学生・中学生・高校生とは違う」
みかモノ「できることがたくさん増える、夢の時間」
みかモノ「パーマを当てて、髪を染めて、おしゃれして」
美容院のモデルのような、
ブラウン系の緩いパーマがかかった髪型をして、
大人びたワンピースやアクセサリーをつけている、
垢抜けたみかの想像。
みかモノ「友達もたくさん作って、海・山・海外旅行!」
海辺で水着のみか。
登山服を着ているみか。
エッフェル塔の前にいるみかの想像。
みかモノ「そして、大好きな人と、忘れられない一生の思い出をつくる……」
遊園地のクリスマスツリーの前で、
誰か(顔は見えない男性)とキスする直前のみかの想像。
みかモノ「そう思っていたのに……」
黒背景にこのセリフ。
○みかのバイト先・イタリアンレストラン(昼)
店長「みかちゃん。ランチAセットできたよ、お願い!」
店長は30代女性のかっこいい雰囲気。中身は優しいお姉さん。
黒髪ショートでシェフのような服。
みか「はい! かしこまりました!」
みか、黒髪をポニーテールにして、
バイト服に身を包んでいる。
トレーにはパスタを二つ乗せている。
みかモノ「藍川みか 大学二年生 バイト漬けの毎日です!」
みか「お待たせしました! パスタランチAセット、ナスと挽肉のボロネーゼでございます」
女性客1「ありがとうございます」
女性客2「美味しそう〜」
笑顔で接客するみか。彼女の誠実で、人当たりの良さがわかる表情。
みか、キッチンに帰ってきて、壁に飾られた時計を見る。
みか「店長! そろそろ授業の時間なので、お先に失礼します」
店長「あらもうそんな時間? 今日もありがとね」
店長「みかちゃんのおかげで、毎日乗り切れてるわ。頼りにしてる」
みか 嬉しそうに笑う。
みか「どういたしまして! また明日来ます!」
○大学のキャンパス内(昼)
大学の時計台をバックに、自転車に乗っているみか。
ポニーテールからほどいた黒髪が、風に靡いている。
みかモノ「大学2年生になった 7月」
みかモノ「もうすぐ、長い夏休みがやってくる」
みか(去年の夏休みは、バイト三昧だったな)
みか(今年も、そうなるのかな)
○大学の教室(昼)
みか「セーフ……」
由美子「みか! こっちこっち!」
女友達の由美子がとってくれていた席にすべりこむみか。
由美子「今日は当たりの席だよ」
ウインクする由美子。
みか、後ろの席に視線をやって、驚く表情。
星斗、スーツ姿でノートPCをカタカタ操作している。
ときおり顎に手を当て、真剣な表情がかっこいい。
みか(星斗社長だ…!)
みかモノ「星斗社長。彼はそう呼ばれている、学内の有名人」
みかモノ「私と同じ大学2年生なのに、起業家として事業を立ち上げているらしい」
星斗、顔をあげてみかと目が合い、にこりと微笑んでくれる。
みか、驚きつつ、ぺこりとしてすぐ前を向く。
携帯のバイブが震えて確認すると、
隣にいる由美子からのSNSメッセージが。
由美子【星斗社長 こんなに近くで見たの 初めて✨】
みか【そうだね】
スマホを握りしめたまま、もう一度後ろの席にちらりと視線を向けるみか。
星斗の姿が輝いて見える。
みか(20歳になるか、なってないかの同い年なのに、社長なんて…)
みか(私とは……別世界の人だな)
みかが、由美子と談笑を始めると、
星斗がパソコンから顔をあげて、みかのことを実は見つめている。
そこに、40代くらいの女性教授が入ってくる。
教授「はい 授業始めまーす みんな、課題の用意して」
教授「すぐグループワークに移りますよ」
学生たちが自分のカバンの中から、いろいろなものを取り出す。
中学生の国語の教科書、大学受験の問題集、刺繍が入ったクッションカバーなど。
みかも自分の机に、リングでまとまった単語帳を置く。
その表紙には「WISH LIST」の文字。
教授「皆さんはもうすぐ20歳になる方が多いわよね。もう20歳になってる子もいるでしょう」
教授「そんな皆さんに今日は、これまでの小中高時代で、印象に残った授業の品物を持ってきてもらいました」
教授「その授業について、今日はペアの人に説明してもらいます」
教授「大人になる年齢まで覚えていたということは、子供であったあなたたちにとって、価値のある授業だったということ」
教授「『これからの子供たちにも伝えたい授業』がテーマでもある、この『教育論講義』にぴったりの課題でしょう」
教授「さあ、ぜひ皆さんで考えてみましょう」
教授の説明が終わり、みかが隣の由美子にこそっと囁く。
みか「大学の授業って 面白い内容が多いよね」
由美子「うん! 数学とか国語みたいな 教科の授業とかじゃないもんね」
教授の説明が続く。
教授「ご実家に寄る時間がなくて、実際の物がないひとは、言葉で説明してね」
教授「じゃあペアを組む人は、隣に座る人……ではなくて!」
教授「前後の人とペアを組んでもらいます」
みか(ん!?)
驚くみか。
教授「友達と隣に座っている子が多いでしょうからね。たまには新しい人と話すのも大事よー」
教授「はい。席チェンジ!」
ざわざわとする教室。人が動き出す。
後ろに座っていた星斗が、由美子に向かって、指で席を交換するジェスチャーをする。
星斗「じゃあ、ここが席交換しましょうか」
由美子「はい!」
由美子、みかにこっそり親指をあげる。
由美子の「社長とペアなんてラッキーじゃん」の声が聞こえてくる気がするみか。
そのまま、みかはどきどきしながら、自分の隣にきた星斗の顔を見る。
大きな瞳に、シュッとした頬のライン、ダークブラウンの髪にはゆるくパーマがかかってある。
スーツもただの真っ黒なスーツではなく、ネイビーに細いラインが入った、オーダーメイドのような垢抜け感。
星斗「どうしました? 僕、なんかついてます?」
みか「いえ! スーツお似合いですね!」
はっとするみか。
みか(私ってば、何言ってるの〜! 初対面なのに馴れ馴れしかったかな)
星斗、ははっと笑う。少し可愛らしい、少年ぽい顔。
星斗「嬉しいなあ。今日はさっきまで、取引先とミーティングだったんです」
みか(取引!? ミーティング……!? お、大人の響きだ)
みか「すごいですね。あの、自分でお仕事されてるって聞きました」
星斗「すごくなんかないですよ」
星斗、目を瞑り軽く首を振ってから、まっすぐな瞳で微笑む。
星斗「やりたいこと、やってるだけですから」
みか、その笑顔が輝いて見えて、見惚れる。
見惚れている自分に気づいて、再びはっとなりながら、自分が持ってきた単語帳を出す。
みか「あの……やりたいことといえば、なんですけど。この単語帳が、私の宿題です」
星斗、その単語帳を見て、一瞬目を丸くする。
みかは単語帳を見ているので、その表情の変化に気がついていない。
みか「中学2年生の授業でつくった WISH LISTでーー」
○回想・中学の教室(昼)
単語帳をパラパラとめくる、中学生のみか。
単語帳には「1.髪を染める」「2.バイトのお金で遊園地に行く」などが書かれてある.
中学の先生「20歳の自分に向けた『WISH LIST』 みんな書けたかー?」
30代くらいの男性教師が、教卓から話しかける。
中学生のみか、単語帳を手に考え事。
中学のみか(20歳の私か…… どんな感じだろう)
中学の先生「書けたなら 隣の人と見せ合ってみろー」
生徒たち「えー」「恥ずかしいよー」
中学の先生「願い事は人に話したほうが叶うんだぞ」
中学の先生「相手の願い事でいいなって思ったものは、覚えておけ。自分の世界も広がるからな」
みか、自分の単語帳の1枚目を見せて、隣の男の子に見せる。
中学のみか「雨宮くん、どうぞ。見ていいよ」
雨宮と呼ばれたのは、細身でおとなしそうな少年。
メガネにショートカット、天然パーマのため、毛先がクリクリしてる。
優しげな目元がトロンとしていて、どことなく眠たそうな、フニャっとした顔に見える。
雨宮「……ありがとう」
雨宮、みかの単語帳をめくる。
雨宮「藍川さん。髪、染めたいの?」
中学のみか「うん! お姉ちゃんがいま大学生なんだけど、金髪なの。大学生ってすごいよね!」
雨宮「藍川さんが 金髪……」
中学のみか「変かな?」
雨宮「ううん。似合うと思うよ」
中学のみか「ほんと? 嬉しい!」
みかモノ「隣の席の雨宮くん。おとなしそうな子だけど、話してるとなんだか落ち着く」
みかモノ「みんなからは『羊の雨宮』って呼ばれてる。髪がくりくりで羊っぽいのと、なんだかいつも眠そうだから」
中学のみか(でもこのふわふわしてる感じが、癒されるんだよなあ)
みか、雨宮を見てほんわかした表情。
中学のみか「雨宮くん。私にも見せてよ。お願い事、なんて書いたの?」
雨宮「んー。秘密」
中学のみか「えー、見たい! いっぱい寝たい、とか?」
雨宮「あはは、違うよ」
雨宮「……けど、藍川さんになら教えてもいいかな」
こそっとみかに囁いて、自分が手にした単語帳を1枚めくる。
そこには「起業家になる」との文字が。
中学のみか「起業家……」
中学のみか「って、何?」
がくっとなる雨宮。困り笑いを浮かべる。
雨宮「うーん。簡単にいうと、『社長』ってやつかな」
中学のみか「社長!!」
雨宮「しー」
みか、パッと自分の口を押さえながら、雨宮の方に顔を寄せてこそっと囁き返す。
中学のみか「雨宮くんなら、絶対なれるね!」
みか、くしゃっとした笑顔で伝える。
雨宮、そう言われるとは思わず、一瞬驚くが、とても幸せそうに笑う。
雨宮「やっぱり、藍川さんに聞いてもらえてよかった」
回想終わり。
○大学の教室(昼)
みか「――隣の席の男の子がね。すごく、大きな夢を持ってて」
みか「その願い事を見せてもらったとき、私までわくわくしたんです」
星斗「わくわく?」
みか、自分の手の中にある、WISH LISTを撫でる。
みか「自分にもいつか……。自分でも思い付かないような、お願い事が叶えられたらいいなって」
そう呟くみかを、優しい眼差しで見ている星斗。
静かに瞼を閉じた星斗が、口を開く。
星斗「絶対できますよ。だって……」
星斗、みかのWISH LISTの横に、手を伸ばす。
そこに置かれたのは、もうひとつの単語帳。
みか「え……」
みか、愕然とした表情。
星斗がその単語帳をめくると「起業家になる」の文字が。
星斗「この願いは、きみが叶えてくれたんだよ。藍川さん」
星斗が笑う。その笑顔の後ろに、中学時代の雨宮の笑顔が重なる。
みか「雨宮くん!!??」
○横浜・みなとみらい(夜)
夜景をバックに、
みかに向かって手を差し伸べて微笑む、星斗のアップ。
星斗「俺と叶えようよ、一緒に」
星斗「願い事、全部」
みか、きらきらとした瞳で、星斗と自分の未来にときめいている表情。
みかモノ「私の願い事……やりたいこと、好きなこと」
みかモノ「もう一度、見つけたい」
みかモノ「この人と」
〜1話本編〜
○みかの頭の中のイメージ(特に背景なし・キラキラふわふわ系のトーンなど)
目を閉じている主人公みか。黒髪ストレートロング。
わくわくを想像している表情。
みかモノ「大学生。それは、小学生・中学生・高校生とは違う」
みかモノ「できることがたくさん増える、夢の時間」
みかモノ「パーマを当てて、髪を染めて、おしゃれして」
美容院のモデルのような、
ブラウン系の緩いパーマがかかった髪型をして、
大人びたワンピースやアクセサリーをつけている、
垢抜けたみかの想像。
みかモノ「友達もたくさん作って、海・山・海外旅行!」
海辺で水着のみか。
登山服を着ているみか。
エッフェル塔の前にいるみかの想像。
みかモノ「そして、大好きな人と、忘れられない一生の思い出をつくる……」
遊園地のクリスマスツリーの前で、
誰か(顔は見えない男性)とキスする直前のみかの想像。
みかモノ「そう思っていたのに……」
黒背景にこのセリフ。
○みかのバイト先・イタリアンレストラン(昼)
店長「みかちゃん。ランチAセットできたよ、お願い!」
店長は30代女性のかっこいい雰囲気。中身は優しいお姉さん。
黒髪ショートでシェフのような服。
みか「はい! かしこまりました!」
みか、黒髪をポニーテールにして、
バイト服に身を包んでいる。
トレーにはパスタを二つ乗せている。
みかモノ「藍川みか 大学二年生 バイト漬けの毎日です!」
みか「お待たせしました! パスタランチAセット、ナスと挽肉のボロネーゼでございます」
女性客1「ありがとうございます」
女性客2「美味しそう〜」
笑顔で接客するみか。彼女の誠実で、人当たりの良さがわかる表情。
みか、キッチンに帰ってきて、壁に飾られた時計を見る。
みか「店長! そろそろ授業の時間なので、お先に失礼します」
店長「あらもうそんな時間? 今日もありがとね」
店長「みかちゃんのおかげで、毎日乗り切れてるわ。頼りにしてる」
みか 嬉しそうに笑う。
みか「どういたしまして! また明日来ます!」
○大学のキャンパス内(昼)
大学の時計台をバックに、自転車に乗っているみか。
ポニーテールからほどいた黒髪が、風に靡いている。
みかモノ「大学2年生になった 7月」
みかモノ「もうすぐ、長い夏休みがやってくる」
みか(去年の夏休みは、バイト三昧だったな)
みか(今年も、そうなるのかな)
○大学の教室(昼)
みか「セーフ……」
由美子「みか! こっちこっち!」
女友達の由美子がとってくれていた席にすべりこむみか。
由美子「今日は当たりの席だよ」
ウインクする由美子。
みか、後ろの席に視線をやって、驚く表情。
星斗、スーツ姿でノートPCをカタカタ操作している。
ときおり顎に手を当て、真剣な表情がかっこいい。
みか(星斗社長だ…!)
みかモノ「星斗社長。彼はそう呼ばれている、学内の有名人」
みかモノ「私と同じ大学2年生なのに、起業家として事業を立ち上げているらしい」
星斗、顔をあげてみかと目が合い、にこりと微笑んでくれる。
みか、驚きつつ、ぺこりとしてすぐ前を向く。
携帯のバイブが震えて確認すると、
隣にいる由美子からのSNSメッセージが。
由美子【星斗社長 こんなに近くで見たの 初めて✨】
みか【そうだね】
スマホを握りしめたまま、もう一度後ろの席にちらりと視線を向けるみか。
星斗の姿が輝いて見える。
みか(20歳になるか、なってないかの同い年なのに、社長なんて…)
みか(私とは……別世界の人だな)
みかが、由美子と談笑を始めると、
星斗がパソコンから顔をあげて、みかのことを実は見つめている。
そこに、40代くらいの女性教授が入ってくる。
教授「はい 授業始めまーす みんな、課題の用意して」
教授「すぐグループワークに移りますよ」
学生たちが自分のカバンの中から、いろいろなものを取り出す。
中学生の国語の教科書、大学受験の問題集、刺繍が入ったクッションカバーなど。
みかも自分の机に、リングでまとまった単語帳を置く。
その表紙には「WISH LIST」の文字。
教授「皆さんはもうすぐ20歳になる方が多いわよね。もう20歳になってる子もいるでしょう」
教授「そんな皆さんに今日は、これまでの小中高時代で、印象に残った授業の品物を持ってきてもらいました」
教授「その授業について、今日はペアの人に説明してもらいます」
教授「大人になる年齢まで覚えていたということは、子供であったあなたたちにとって、価値のある授業だったということ」
教授「『これからの子供たちにも伝えたい授業』がテーマでもある、この『教育論講義』にぴったりの課題でしょう」
教授「さあ、ぜひ皆さんで考えてみましょう」
教授の説明が終わり、みかが隣の由美子にこそっと囁く。
みか「大学の授業って 面白い内容が多いよね」
由美子「うん! 数学とか国語みたいな 教科の授業とかじゃないもんね」
教授の説明が続く。
教授「ご実家に寄る時間がなくて、実際の物がないひとは、言葉で説明してね」
教授「じゃあペアを組む人は、隣に座る人……ではなくて!」
教授「前後の人とペアを組んでもらいます」
みか(ん!?)
驚くみか。
教授「友達と隣に座っている子が多いでしょうからね。たまには新しい人と話すのも大事よー」
教授「はい。席チェンジ!」
ざわざわとする教室。人が動き出す。
後ろに座っていた星斗が、由美子に向かって、指で席を交換するジェスチャーをする。
星斗「じゃあ、ここが席交換しましょうか」
由美子「はい!」
由美子、みかにこっそり親指をあげる。
由美子の「社長とペアなんてラッキーじゃん」の声が聞こえてくる気がするみか。
そのまま、みかはどきどきしながら、自分の隣にきた星斗の顔を見る。
大きな瞳に、シュッとした頬のライン、ダークブラウンの髪にはゆるくパーマがかかってある。
スーツもただの真っ黒なスーツではなく、ネイビーに細いラインが入った、オーダーメイドのような垢抜け感。
星斗「どうしました? 僕、なんかついてます?」
みか「いえ! スーツお似合いですね!」
はっとするみか。
みか(私ってば、何言ってるの〜! 初対面なのに馴れ馴れしかったかな)
星斗、ははっと笑う。少し可愛らしい、少年ぽい顔。
星斗「嬉しいなあ。今日はさっきまで、取引先とミーティングだったんです」
みか(取引!? ミーティング……!? お、大人の響きだ)
みか「すごいですね。あの、自分でお仕事されてるって聞きました」
星斗「すごくなんかないですよ」
星斗、目を瞑り軽く首を振ってから、まっすぐな瞳で微笑む。
星斗「やりたいこと、やってるだけですから」
みか、その笑顔が輝いて見えて、見惚れる。
見惚れている自分に気づいて、再びはっとなりながら、自分が持ってきた単語帳を出す。
みか「あの……やりたいことといえば、なんですけど。この単語帳が、私の宿題です」
星斗、その単語帳を見て、一瞬目を丸くする。
みかは単語帳を見ているので、その表情の変化に気がついていない。
みか「中学2年生の授業でつくった WISH LISTでーー」
○回想・中学の教室(昼)
単語帳をパラパラとめくる、中学生のみか。
単語帳には「1.髪を染める」「2.バイトのお金で遊園地に行く」などが書かれてある.
中学の先生「20歳の自分に向けた『WISH LIST』 みんな書けたかー?」
30代くらいの男性教師が、教卓から話しかける。
中学生のみか、単語帳を手に考え事。
中学のみか(20歳の私か…… どんな感じだろう)
中学の先生「書けたなら 隣の人と見せ合ってみろー」
生徒たち「えー」「恥ずかしいよー」
中学の先生「願い事は人に話したほうが叶うんだぞ」
中学の先生「相手の願い事でいいなって思ったものは、覚えておけ。自分の世界も広がるからな」
みか、自分の単語帳の1枚目を見せて、隣の男の子に見せる。
中学のみか「雨宮くん、どうぞ。見ていいよ」
雨宮と呼ばれたのは、細身でおとなしそうな少年。
メガネにショートカット、天然パーマのため、毛先がクリクリしてる。
優しげな目元がトロンとしていて、どことなく眠たそうな、フニャっとした顔に見える。
雨宮「……ありがとう」
雨宮、みかの単語帳をめくる。
雨宮「藍川さん。髪、染めたいの?」
中学のみか「うん! お姉ちゃんがいま大学生なんだけど、金髪なの。大学生ってすごいよね!」
雨宮「藍川さんが 金髪……」
中学のみか「変かな?」
雨宮「ううん。似合うと思うよ」
中学のみか「ほんと? 嬉しい!」
みかモノ「隣の席の雨宮くん。おとなしそうな子だけど、話してるとなんだか落ち着く」
みかモノ「みんなからは『羊の雨宮』って呼ばれてる。髪がくりくりで羊っぽいのと、なんだかいつも眠そうだから」
中学のみか(でもこのふわふわしてる感じが、癒されるんだよなあ)
みか、雨宮を見てほんわかした表情。
中学のみか「雨宮くん。私にも見せてよ。お願い事、なんて書いたの?」
雨宮「んー。秘密」
中学のみか「えー、見たい! いっぱい寝たい、とか?」
雨宮「あはは、違うよ」
雨宮「……けど、藍川さんになら教えてもいいかな」
こそっとみかに囁いて、自分が手にした単語帳を1枚めくる。
そこには「起業家になる」との文字が。
中学のみか「起業家……」
中学のみか「って、何?」
がくっとなる雨宮。困り笑いを浮かべる。
雨宮「うーん。簡単にいうと、『社長』ってやつかな」
中学のみか「社長!!」
雨宮「しー」
みか、パッと自分の口を押さえながら、雨宮の方に顔を寄せてこそっと囁き返す。
中学のみか「雨宮くんなら、絶対なれるね!」
みか、くしゃっとした笑顔で伝える。
雨宮、そう言われるとは思わず、一瞬驚くが、とても幸せそうに笑う。
雨宮「やっぱり、藍川さんに聞いてもらえてよかった」
回想終わり。
○大学の教室(昼)
みか「――隣の席の男の子がね。すごく、大きな夢を持ってて」
みか「その願い事を見せてもらったとき、私までわくわくしたんです」
星斗「わくわく?」
みか、自分の手の中にある、WISH LISTを撫でる。
みか「自分にもいつか……。自分でも思い付かないような、お願い事が叶えられたらいいなって」
そう呟くみかを、優しい眼差しで見ている星斗。
静かに瞼を閉じた星斗が、口を開く。
星斗「絶対できますよ。だって……」
星斗、みかのWISH LISTの横に、手を伸ばす。
そこに置かれたのは、もうひとつの単語帳。
みか「え……」
みか、愕然とした表情。
星斗がその単語帳をめくると「起業家になる」の文字が。
星斗「この願いは、きみが叶えてくれたんだよ。藍川さん」
星斗が笑う。その笑顔の後ろに、中学時代の雨宮の笑顔が重なる。
みか「雨宮くん!!??」
