結婚の決め手は焦げた玉子焼き!?黒豹御曹司は愛する秘書を逃がさない

「あの男を見返すには、あいつよりも金があって権力がある男がいいだろう?」
「……自分で言っちゃいます?」
 沙紀は思わずツッコんでしまった。
 もうすぐCEOになる暁良は、お金もあって権力もあって、背も高くて見た目も抜群。
 これ以上ない優良物件だ。

「期限は一年間。本当は今すぐ入籍したいが、まずは婚約してくれればいい」
「婚約の話は両親にも?」
「もちろん。契約ではなく恋愛ということにした方がいいと思っているが、どう思う?」
「私も、その方がいいと思います」
 もっと強引に何でも勝手に決めてしまう人なのかと思ったのに、私に意見も聞いてくれるんだ……。
 大輝は私の意見なんて何も聞いてくれなかったのに。
 
「契約成立だな」
 ゆっくりと近づいてくる暁良の整った顔も、唇にかかる吐息も色っぽい。
 この人と……婚約?
 初めてのキスはほろ苦いコーヒーの香り。
 沙紀はあまりにも現実味のない話と、食べられてしまいそうなキスに戸惑いながら、やっぱり黒豹のようだと一人で納得した。

「まずは引越しか?」
「いいえ、仕事からです」
 ソファーに押し倒されていたせいでいつから夏目がいたのかわからないけれど、キスをしていた時にはそこにいたのではないだろうか。
 恥ずかしすぎるんですけど!
 
「暁良様は上海のウェイ様と打ち合わせです。工藤さんは営業部のデスクの荷物を運んできてください」
「はい、行ってきます」
 営業部長には話が通ってますと言われた沙紀は逃げるように部屋を出た。
 
 おかしい。絶対おかしい。
 大輝にフラれた30分後に、ハイスペックなイケメンと婚約することになるなんて。
 
 エレベーターを4階で降りると見慣れたグレーのカーペットが目に入る。
 そう、これが日常風景!
 
 行き先掲示板に書かれた『加賀:貫田商事・直帰』にホッとしてしまった。
 大輝とはもう顔を合わせたくない。
 
「工藤ちゃん、異動ってどういうこと?」
「それが私にもさっぱり」
 隣の席の山﨑は入社した時からずっとお世話になっているハキハキした先輩。
 電話の受け答えやメールの仕方という基本的なことから資料の作り方までいろいろと教えてもらったのに、こんな風に異動になるなんて考えたことがなかった。
 
「やりかけの仕事はある?」
「今、まとめているのは大……」
 うっかり「大輝の」と言おうとした沙紀は、一度キュッと口を閉じた。