結婚の決め手は焦げた玉子焼き!?黒豹御曹司は愛する秘書を逃がさない

 翌日、引越しの荷解きは、すぐ終わってしまった。
 ぬいぐるみと本しか残らなかったのではないかと思うほど、自分の荷物の少なさにびっくりしたけれど。
 
 夕方、大きなスクリーンで映画を見せてもらったが、後ろからも横からも音が聞こえ、まるで映画館で見ているかのような大迫力に驚いた。
 さりげなく出てくるワインとおつまみ。
 そして隣で一緒に見てくれる人。
 最高では?

「……え? 在宅勤務?」
「夏目が説明していただろ?」
 月曜日から普通に出社するのだと思っていたら、株主総会までは在宅勤務だと知って驚いた。
 特別勤務の説明の時に夏目から言われたそうだが、パーティ出席に気を取られて、まったく覚えていなかったのだ。
 
「頭がパンクしそう」
 取引先の会社情報とメイン製品、社長の名前と顔写真をすべて覚えるようにと夏目から指示された沙紀は、暁良に笑われながらパソコンのモニタとにらめっこをし続けた。
 
 次の週末は両親と温泉へ。
 しかも、有名なリゾートのはなれを丸々貸し切りだ。
 
 天然温泉が7種類もあるという宿に、温泉好きの父はホクホク。
 母と私は温泉成分を使った全身エステでツルツルピカピカに。
 母は初めてのエステ体験に大喜びだった。
 
「まさか沙紀が結婚できるなんて」
「しかもこんな好青年と」
 ごめんね、お父さん、お母さん。
 両親は暁良と婚約することを喜んでくれたが、一年で別れることになるので素直に喜べなかった。
 
「一生大切にします」
 恋愛結婚のフリだから、今はその言葉が正しいのだろうけれど心境は複雑だ。
 
「今度はぜひ東京へ遊びに来てください。部屋は空いていますので、いつでも大歓迎です」
「まぁ! うれしい。一度銀座に行ってみたかったの」
「お母さん、なんで銀座?」
「昔から憧れの場所でしょう?」
 そういうものなの?
 だったら私が上京した時に遊びに来ればよかったのに?
 
「母さんは昔から、銀座のなんとかパーラーに行きたいって言ってたんだ」
「へぇぇ」
 よくわからないけれど、行きたい店があったんだ。
 
「暁良さん、沙紀をよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
 結婚式は一年後だと説明し、今日は結納だけ。
 両親を騙すことに心は痛むけれど、ごめんなさい。親不孝な娘で。