結婚の決め手は焦げた玉子焼き!?黒豹御曹司は愛する秘書を逃がさない

 沙紀のマンションに到着すると、すでに引っ越し業者の段ボールが玄関前に置かれていた。
 いつの間に頼んだの?
 昨日連絡して、今日すぐ段ボールを運んでくれるものなの?
 
「あの男が触れたものは全部捨てろ。なんでも買ってやる」
「えぇっ、もったいないですよ」
 もともと荷物は少なかったけれど、大輝と使っていた食器や大輝の服はもちろん、おそろいの物や贈られた物は全部捨てることにした。
 
 ベッドや棚はマンション備え付けだからそのまま。
 お気に入りの小さなテーブルは暁良のマンションに持って行ってもらうことにしたが、布団やカーテンは思い切って捨てた。
 
「あ……」
 初めてのデートで買ってもらったぬいぐるみに手をかけた沙紀は戸惑った。
 このぬいぐるみは気に入っているが、大輝との思い出の品だ。
 捨てるべき?
 捨てないと思い出してしまうから捨てないと。
 でもパンダを捨てるなんて!
 ギュッとパンダのぬいぐるみを握りしめたまま動けなくなってしまった沙紀の隣に立った暁良は、ジッとぬいぐるみを見つめた。
 
「これはどこで買える?」
「上野動物園ですけど、限定だったので……」
「そうか」
 ヒョイとぬいぐるみを取り上げると、持って行く段ボールの中に暁良が入れてしまう。
 
「ここのぬいぐるみは連れて行くんだろ」
 全部捨てろって言ったくせに、大輝との思い出の品だと気付いたはずなのに。
 何も聞かずにパンダが多いなと笑う暁良の気遣いが沙紀には嬉しかった。
 
「これは明日、業者に運んでもらう。今からは街に行こう。案内してくれ」
「そういえば、アメリカから帰ってきたばかりって……?」
「沙紀がよく行く店を教えてくれ」
「全然おしゃれじゃない場所です」
 かまわないと手を差し伸べられた沙紀は、照れながら暁良の手を握った。
 
 車は駅前の駐車場に。
 よく行く本屋、会社帰りに立ち寄るカフェ、雑貨屋。
 チェーン店でも気にせず、暁良はついてきてくれる。
 大輝は自分が行きたい店しか入らなかったのに。
 
「あ、これ始まっていたんだ」
 沙紀は映画館の前で思わず立ち止まった。
 
「映画?」
「これ予告を見た時に面白そうだなって思っていたんです」
 今度会社帰りに見に来よう。
 
「じゃあ、次は」
 最近できた人気のアイス店へ行こうとした沙紀を暁良は止めた。
 腕時計を確認し、沙紀の手を引いて映画館の中へ。
 
「カップルシート」
 暁良は十分後に始まる沙紀が見たかった映画のチケットを購入してしまう。
 絶対興味がなさそうな恋愛モノなのに?

「涼しい場所で休憩だ」
 私が気にしないように気遣ってくれる暁良に、沙紀は嬉しそうに微笑んだ。


 映画館に入っていくカップルを見た大輝は、思わず「嘘だろ」と呟いた。