結婚の決め手は焦げた玉子焼き!?黒豹御曹司は愛する秘書を逃がさない

 御曹司なのになんであんなに優しいの?
 もっと怖くて近寄りがたい人じゃないの?
 もしかして、昨日夕食に連れて行ってくれたのも、昨日からここに住むように言われたのも、飲みなおそうと誘われたのも、私が一人で寂しくすごさなくてすむように……?
 
 もし一人でマンションに帰っていたら、なんでフラれたのかモヤモヤして、土日もずっとウダウダ悩んで、月曜日に憂鬱な気持ちで会社に行くことになったはずだ。
 急に秘書課に異動になったのも、私が大輝と顔を合わせなくてすむように……?
 
 なんでフラれたばかりの丁度いい女にそこまでしてくれるの……?
 
 いつの間にかまた眠り、次に目を開けた時には昼過ぎだった。
 眠ったおかげかようやく頭が回り始める。
 沙紀はシャワーを浴び、頭をスッキリさせるとラフな姿のままリビングへ向かった。

 ソファーで書類を見ながら髪をかきあげていた暁良が、沙紀に「おはよう」と微笑む。
「昨日はすみませんでした」
 沙紀がペコペコと頭を下げると、暁良は書類を置き立ち上がった。
 
「夫婦になるんだ。敬語はやめないか?」
「でも」
「昨晩はため口だったじゃないか」
 ひぃぃぃ。私の馬鹿! なんでため口!
 
「もう頭痛は収まったか?」
「は、はい。あ、えっと、うん?」
 わざわざ言い直す沙紀を暁良が笑う。
 
「うどんでいいか? 普通の食事がいいか?」
「うどんで……というか、自分で作ります」
「いいから座ってろ」
 暁良は沙紀の頭をポンポンと優しく叩くとキッチンへ。
 沙紀は慣れない扱いに真っ赤になった。
 
 トントンとリズムの良い包丁の音。
 出汁のいい香りもする。
 
 お金も地位も名誉も、そして料理も敵わない。
 なんで私と契約結婚するのだろう?
 もっといい条件の女の人なんてすぐ見つかりそうなのに。
 自分が作るうどんよりも遥かに美味しいうどんを作られてしまった沙紀は、女子力も完敗だと項垂れた。

「食べ終わったら荷物を取りに行こう」
「あ、引越し……?」
「今日の服はあそこから選べばいい」
 玄関の近くに置いてある二箱の段ボールにはShineBoutiqueのマーク。
 
 待って、ShineBoutiqueって!
 まさか昨日のお店で買ってくれたってこと?
 
 あの二箱で一体いくらになるのか。
 想像するだけで恐ろしい箱に沙紀は作り笑いすることしかできなかった。