結婚の決め手は焦げた玉子焼き!?黒豹御曹司は愛する秘書を逃がさない

 まるで小さい子がお父さんの服を着てしまったかのように、ハーフパンツは膝下まで、半袖は肘より下まで。
 暁良は手も足も長すぎる。
 着替えた沙紀がリビングへ向かうと、ラフな姿でキッチンに立つ暁良の姿が見えた。
 
「……料理、されるんですか?」
「少しだけな」
 というわりには、そのおいしそうなおつまみは何なんですか!
 ブロッコリーとじゃこ? まぐろと長芋? タコとアボカドのキムチ和え? トマトとチーズ? ホタテまで!
 
「ワインでいいか? ビールやチューハイは置いていないんだ。今から買いに行くか?」
「ワ、ワインで!」
 慣れた手つきでワインのコルクを開ける暁良。
 イケメン、キッチン、ワイン。
 ……犯罪では?
 
 夜景が見える広いリビング、ふかふかなソファー、現実離れした空間で飲むワインの味なんてわからない!
 いや、もともと安物のワインしか買ったことがないから、高級ワインはわからない!
 
「酔っても部屋に運んでやるから大丈夫だ」
 心置きなく飲めと言われた沙紀は、この非日常空間に酔ってしまったのかもしれない。
 
 三年間付き合った大輝にあっさりと捨てられたこと。
 喧嘩をしたわけでもなく、こっちの方が若くて可愛いなんて納得がいかなかったこと。
 会社の廊下で言われるなんて予想外だったこと。
 自分は結婚まで考えていたのに、大輝はそうではなかったこと。
 
 酔ってしまった沙紀は、暁良に泣きながら愚痴をこぼしてしまった。
 暁良には関係ない話なのに。
 それなのに、思っていることは何でも吐き出せと優しく言われたら、もっと泣くにきまっているじゃない!
 
 暁良の腕の中は温かくて、いい匂いがする。
 泣きつかれた沙紀は、いつの間にか暁良に抱き寄せられたまま眠ってしまった。

    ◇
 
 しゃくりあげる声が聞こえなくなったと思ったら、腕の中でスヤスヤと眠っている沙紀に暁良は大きく息を吐いた。
 
「……そんなに好きだったのか?」
 結婚まで考えていたと言っていたが、あんな最低な男としなくてよかった。
 暁良はそっと沙紀を抱き上げ、部屋のベッドへ。
 布団をかけ、赤くなってしまった目元をそっと撫でた。
 
「早く俺を好きになれ」
 暁良は涙で濡れた沙紀の頬から名残惜しそうに手を離すと、ゆっくりと部屋から退室した。