忘れられなかった初恋が、40歳で叶ってしまった

推し…かぁ。

薄暗くなってきた地元駅を1人歩きながら、絵奈は考える。
高校生の頃はよく、結を含めた仲良しグループでこの辺りを通ったな。
地元を離れて10年近く。建物は帰省するたびに変わってるし、まるで私の故郷じゃないような感覚すら覚える。

さっきのスイミングコーチは、確かにイケメンだった。良いな、結。あんな芸能人みたいなキラキラした人と間近で話せるなんて。

今もコーチに会えてるのかな?
もしかして今頃…!?

絵奈はコーチと結が一線を超えてしまう妄想をしながら地下鉄に乗り込んだ。
妄想なら、何考えても良いもんね。

混み合う地下鉄の中、ふと顔をあげると一瞬知ってる瞳が絵奈を捉えた。

祐太郎だ。


窓の外には祐太郎が居て、彼もこちらに気付いたらしく、軽く右手を上げてくれたのだ。
その瞬間地下鉄の扉は閉まり、祐太郎は見えなくなってしまった。


え??
祐太郎君!

絵奈はすかさずスマホを取り出し、祐太郎へメッセージを送ろうとすると、またもや先にメッセージが届いた。

【今地下鉄いた?乗ってたよね?めっちゃニヤついてたね(笑)】

きゃぁーーー、はず、恥ずかしい…!!
イケメンコーチと結の妄想してる顔を見られてしまったぁぁ。よりによって、祐太郎君に…。

【やっぱ祐太郎君だったんだね!ちょっと思い出し笑いしてたの(笑)まさかこっちでも会うなんて!ただ今帰省中なの。今年もお世話になりました。良いお年をお迎えください。】

ここは大人の余裕でかわす。なんてったって私は旦那の居る主婦ですから。中学時代の芋くさい女と同じように思われては困る。

【そっか!俺は今日仕事納めなんだ。中央駅で降りるの?】
【そうだよ!】
【今次の地下鉄乗るから待っててよ!】

……は?


ちょっと待って。心の準備が、、無理!
中学時代の好きだった男の子と2人きりで旦那に内緒で会うなんて、不倫じゃん!

絶対に無理無理無理!!!

【OKのスタンプ】
【ワーイのスタンプ】


…絵奈、ちょっと何やってるのよ?(心の声)
いや、ちょっと待って。私は考えすぎ。

そもそも同級生と2回も再会することが普通に嬉しい事だし、もし電車で目が会った相手が結だったとしても、私は待つ。

すなわち、何もやましい事はない!
祐太郎君は単なる友達に過ぎない!


絵奈はスマホのインカメで自分の顔をチェックすると、簡単にリップを塗り直し中央駅の改札口で祐太郎を待った。