忘れられなかった初恋が、40歳で叶ってしまった



「ただいま!今日のご飯は生姜焼き?匂いですぐにわかった!あぁ、お腹すいたなぁ〜」
「パパーーー!」

胡桃が信一に飛び付いた。
「どうしたの?胡桃ちゃん。今日はえらくご機嫌じゃん?」


「うん、レジェンガの試合行ってきたの!そしたらね、ジャーン!!ママのお友達のお陰で二階堂選手のサイン貰っちゃった!写真も撮ってもらったの!」

信一は驚きながら絵奈に尋ねる。
「え?ママそんな友達いた?」
「うん、なんとね、上岡選手が私の同級生の弟でさ!今日たまたま会ったんだよね。凄い偶然だよね?」

「え、上岡選手?パパの一番大好きな選手だよ!良いなあ!」
「なんと奈津美とも飲んだ事あるみたいで、世間は狭いねって話したよ。今度パパも来たら写真撮って貰えるように言ってあげる。私のコネで!」

「もう、ママはすぐ調子乗るんだから!」

胡桃が絵奈をたしなめると、信一の膝に乗り今日撮った写真とサインを得意気に披露した。




「ごめん、今日から来ちゃった」

その晩、絵奈のTシャツをたくし上げようとする信一に、絵奈は申し訳なさそうに謝った。

「そっか。体調悪い時にごめんね。また大丈夫なときにしようか」
信一はそっと絵奈の唇にキスをすると、絵奈を抱きしめて寝息をたてた。

なんでだろう。信ちゃんは素敵なパパだし、優しい夫なのに。
キスをされた途端、Tシャツの裾から手を入れられた瞬間私、信ちゃんの事嫌だなって思ってしまった。

信一が熟睡しているのを確認すると、絵奈はそっと信一の手を離しては、ラインを開いた。

祐太郎君からは何も来ていない。今日コートで交わしたメッセージだけの、何も無い普通のやり取り。
だけど私は、夫に祐太郎君の話をしなかった。
だからといって私は、祐太郎君ともっと関係を持ちたいとも思わない。

昔、好きだった男の子。


今日の再会は、単なる素敵な思い出の断片で終わらせたい。
私だって、家庭が、もちろん夫も、娘も大切だ。

絵奈は優しいけど少しだけいじってくるような祐太郎とのやり取りに心をときめかせた後、明日のお弁当の準備工程についてシュミレーションしてから眠りについた。

なかなか寝付けなくて、眠りについたのは深夜2:00を回ったあたりだった。