忘れられなかった初恋が、40歳で叶ってしまった

「前髪はこんな感じで重めにして、サイドは顔にかかるように、この写真みたいにお願いします。」

3ヶ月に一度と決めている美容室で絵奈は、久々に髪型のオーダーを綿密に美容師に説明している。

パート先の中野を見て、絵奈もボブにしたいと思ったのだ。
今までは「適当に切って整えて下さい」という投げやりなオーダーばかりだった。こんなにしっかり伝えたのは何年ぶりだろうか?

「こんな感じで、どうでしょうか?」
美容師が合わせ鏡を使って後ろからのシルエットを絵奈に見せてみる。

そこには、今までのセミロングで大人しそうな主婦の絵奈ではなく、活発で若々しい絵奈の姿があった。

「ボブ、すごくお似合いですね!」

絵奈は今まで、美容師の言葉なんて全てお世辞でしかないと思っていたが、今日は素直に嬉しいと思った。

「すごく気に入りました!ありがとうございます!」

ついでに服も新調した。
出産後は殆どユニクロでしか服を買わなくなっていた絵奈だが、他の店で試着してみると、思いの外楽しめた。

「ここは若い人向けだから」と敬遠していた店も、いざ入って試着すると案外しっくりくる。

店員の「お似合いです!」の言葉も素直に受け入れてしまい、乗せられるのも悪く無いなと思ってしまう。

自分だけのために今日だけで数万円の出費だった。普段切り詰めている絵奈が、自分自身に数万円単位の出費なんて今までなら考えられない金額だが、絵奈は全然後悔しなかった。

むしろ、今まで何でこんな適当に服や髪を決めてしまっていたのか、について後悔した。


来月祐太郎君に会えたら、可愛いって言ってもらえるかな…?

絵奈は来月の祐太郎とのランチが待ち遠しくて仕方ない。